家庭教師編・11
「久しぶりね~ ハル君!
あんまり変わってないね!」
「いや~、それほどでも...」
照れくさそうに頭を掻く。
そんな褒められるほど成長してないんだけどなぁ......
ん?
今変わってないねって言われてたのか?
「何でハル君が来てくれたんだろうって思ったら、
そういえば美咲が家庭教師として来てくれることになった
って嬉しそうに言ってたの思い出したわ~」
「え、そうなんですか?」
「ま、ママ! そのことは言わないでって散々言ったじゃん!!」
美咲の年相応な可愛らしい反応が垣間見えた。
......
と、一瞬騙されるところだが忘れてはいけない。
お母さん、お宅の娘さん
俺を襲おうとしていましたよ?
そう言えたならどれだけスッキリすることか
ただ、俺も当然どこかのお嬢様に対してだけでなく
幼馴染にも寛容な男だ。
鬼ではない
ここはグッと喉から舌先まで出ている真相の件を
呑み込んで黙ってやるとする。
そもそも、このご時世...いや、いつどの時代も女が男を襲うなんて
響きは素晴らしいシュチュエーションは
現実に到底起きるものではない。
変なことを言って
俺の貞操の救世主を困らせたくない。
......というか本音としては自分の首を絞めたくない
「ふふっ、それじゃあ私はお邪魔のようだし!
退散しま~す」
そう残して速やかに美咲ママはドアを閉めて去った。
するとさっきまでドタバタしていた現場に沈黙が訪れた
あんなに強行してきた美咲は、
まるで人格が変わったかのように
恥ずかしそうにそっぽを向いている。
何を乙女面しとんねん
という、ツッコミの手までが出かかって
声は出なかった。
そのままお互い口を開かずに数分経つと、
そろそろ動いても良いと踏んでゆっくりとバックに手を伸ばす。
また、あの恐ろしい眼光を
首を180度回すような勢いで向けてくるのではないか、
とビクビクしながらジッと美咲を見つめながら手探りしていると
左手が鞄の持ち手を掴んだ。
このままトンズラだ!
......そうしても
良かったのだが、
それでは俺を救ってくれた美咲ママに何か悪い気がするし
何より
まるで解決にはならない。
「はぁ...」
大きくついた溜め息に美咲がピクッと反応した。
アイツは明らかに俺からの言葉を待っている
もうここで逃げることは簡単だ、
この先
何度も美咲を避け続けることだって出来ないこともない。
でもそれは
「カッコ悪いからな...」
ドカッと美咲の対面の位置に座り直した。
ギリギリ彼女の表情は見えない
「なぁ、こっち向けよ。
話も出来ないだろ? そもそも俺は家庭教師として来たんだからさ」
出来るだけ穏やかな口調で話しかける。
宥めたり慰めたりされたいのは俺の方なのだが......
そんな自分の意志は押し込めてクールな対応を取る、
クールな俺の働きかけもあって情緒不安定な幼馴染はこっちを向いた。
しかし...
「え?」
つい声が出たのは驚きからだった。
美咲は泣いていた
ただ、そのこと自体よりも
俺はそれをどこかで見たような気がした。
言ってみれば、デジャヴだ。
そんな不思議な感慨に包まれると
ある声が聞こえてきた。
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