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家庭教師編・6

その日の学校はやたら静かに感じた。

当然休みの奴が多かったというわけではない。


考えればいつだって隣のやかましい女がいる限り、

俺の高校生活に平穏は無いが

何か控えめな喧噪だ。


夏の近付く季節、鬱陶しい梅雨も去っていったのか


何も窓際にいなくとも、廊下からでも空は見える。


積乱雲のこんもりとして壮大な雲の盛り上がりは、

下らない人が何となく抱く夏への期待を思わせた。


何故に人は夏に惹かれるか


冬は何か寂し気な感じさえ覚えるというのに。


春も出会いの季節と呼ばれるが、自分には別れの季節の様に感じて

悲しみが広がる


今に夏を意識し出したのはもしかしたら室内で聞く騒々しさがあったからだ。


そうだ、花山と美咲がいつも隣で仲良くやっていたからだ。



それが今は無いから、屋外のセミの鳴く声が聞こえてきて夏を思わせるのだ



隣で授業中なのに爆睡を決め込む女を見る。


コイツが来てから随分といい意味でも悪い意味でも賑やかになっていた。


それで一旦静かになると、こんなにも周りで流れている音が気になり始める



そう、改めて意識するだけで

実は周りは変わっていない。


きっと、そうだ



今日が穏やかなのは、たまたまだ。

美咲もそうだ、

花山もそうだ。


俺の日常にBGMが流れているとしたら、

いつもは活発な感じで

今だけはゆったりとしているだけだ。


すぐにこんなセンチメンタルは終わりを迎える......



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ハル! これが分からないのだがぁ!?」


そうだ、終わってしまった。


放課後は結局お迎えの車が着て

だらしなく寝っ転がってゲームをする花山の姿が戻り、

そのまま屋敷に直行。


そうして開始1分足らずで

自分で解いてみろ、

と言った国語の模擬テストで奴はもう音を上げた。


「お前なぁ、本番でデカい声出そうものなら失格にされるぞ?」


「分からないものは分からな~い!」


感情が高ぶると声のボリュームが抑えられないのがコイツの特性だ。

ゲームでも上手く行かないとゲームに文句を言い出す、

ガキっぽいというか

もはや野生的衝動に生きている。


「まったく何が分からないんだ...って漢字じゃないか

 それも一番最初に出る、必ず点数を与えるために作られたような

 超簡単問題」


「な、何を言うか!

 ハルが少し漢字が分かるから簡単に思えるだけだ!」


「これ、中学で習うやつだぞ」



絶句するお嬢様にこっちも掛ける言葉を失う。

ど忘れとかではなく、


こんなの習っていたのか、もう既に!


みたいな顔を見てしまっては、

家庭教師として教える範疇のことじゃないような気がする。


いや、ここで教えずして誰がコイツに叩き込むというのか


どうせ甘やかされて生きてきたのだから、

ここの大人が今になってしっかりと教えるわけもないし

学校の教師も信用ならん。


俺がやってやる



「じゃあ、まず中学漢字ドリルでもやるか」


「な、何だと!? 私を舐めているのか!」


実はもう用意してあるものをパッと出す。

明らかに狼狽が目に見えたが構わず、


「じゃあ、スラスラ解けるよな?」


素敵な俺の笑顔を添えて丁寧に差し出してあげた。



数分後には中学1年生用ドリルの前に

泣き出しそうな高校1年生女子の哀れな醜態が出来上がっていた。

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