家庭教師
少し長めと遅めなのに理由は、ないです。
「嫁入り前の婚約者の顔に一生残る傷を付けるとは......
そこまでしなくとも私はハルの事を忘れたりしないぞ?」
「どんな加虐主義だ!
そんなことするわけないし、そこまでやってないわ!
というか、俺を学校に戻せ!!
今なら間に合うはずだ、そうでなければ
お、俺の無遅刻無欠席無早退が......」
俺の経歴の方が傷を付けられている。
「そんなことを気にしていたのか......
私は経歴より今のハルそのものを見ているから問題など――」
「お前からの評価はいつも満点だろうが、今更気にせんわ」
「ほう、分かってきたではないか」
ニコニコしやがってコイツ......
減点されたいくらいだ、その評価を
「はぁ......それで何で連れて来たんだよ」
もはや俺の運搬方法とかの当然的に浮き出る疑問は
簡単に予測がついているので聞きもしない。
コイツにいつも聞くべきはその突拍子もない、
動機だ
「うむ、それはだな......」
急に花山らしくなくモジモジし出した。
「なんだよ、気味悪い」
「そ、そこは可愛いね、であろうが!」
「はいはい、
で早く教えろよ」
軽くいなして答えを急かす。
「わ、私の家庭教師を!
やって、貰いたいのだが......駄目か?」
「......は?」
上目遣いなど下手なあざとい演技が癪に障る上に要求もしっかり厚かましくて
冷たい反応が自然と出た。
「そ、そんな怒らなくたって......」
「まず、そのお前に似合ってないキャラを止めろ」
そう言うとすぐさまシャキッと姿勢と戻して、
いつもの腰に手を当てポーズになった。
ちんまいから幼女ぽさが出て、よう似合うし
それに落ち着く感じだ。
本人も見てる方も
「なんだハルよ、ノリが悪いな」
「お前のテンションがおかしいんだろ......
それで家庭教師だぁ?
んなもん勝手に雇えよ、金持ち」
「本当に素で冷たいのう、ハル~
そんなんでは私にしかモテんぞ?」
「お前以外に好かれたいわ」
......今は美咲もいるが、
別に嫌いというわけでもないが
急に恋仲になるのは恥ずかしいというか
「む、今他の女のことを考えているな?」
「なんでそんなとこ勘が良いんだよ」
浮気でもしようものならバレそうだ。
まあ、間違っても付き合うことはないから大丈夫だが
「あー、また話が脱線した。
それでなんで俺なんだよ」
「それは無論、ハルとの時間を増やしたい口実だ」
「言っちゃ駄目だろ、口実って」
ホント、アホだなぁ......
というか普通に面倒くさいな、コイツの申し出。
適当なこと言って遠回しに断ろう
「そもそも美咲とお前の勝負に公平性を持たせたいんだよ俺は
花山、お前は俺に力添えして貰ってアイツに勝って実力だと言えるか?」
「ぐっ......そう言われると」
よしよし、効果は抜群だ!
「でも勝てばよい、そうは思わぬかハルよ」
ドン引きだよ、お嬢様。
「よくもまあ、
好かれたい男にそう言うこと平気で打ち明けちゃうね、お前は......」
「これは主義であり、家訓であり、真実だ!」
家訓にしちゃイカンでしょ
「はぁ~...
まあ、兎にも角にもだ」
「とにかく、と今のは何が違うの――」
「お黙り!
そうやって俺との時間を引き延ばしたいからって無駄口叩くな!
俺が教師になったら私語は慎んでもらうぞ!」
「お! つまり請け負ってくれるのだな!」
人の話を聞けない令嬢に呆れる。
周りのメイド共はどう教育したんだ、コイツを
後ろを見てもいつもの3人衆が黙って俺を観察してるだけだ。
前は花山を馬鹿にするだけでも飛びついてきたのだから、
マシにはなっているが
何より目の前の女をマシにしてやってくれよ...
「俺の言うのはもしも、の話でだなぁ...」
「これからは家庭教師なのだからずっと我が家にいて貰って構わんぞ!」
「お泊り勉強会とかいうお遊びじゃねえんだよ、家庭教師は!」
花山は頬を膨らまして
深々と高級ソファーに勢いよく座り込む。
「分かっているぞ、そんなことは
私も本気で勉強をするし、ハルに金も払う」
それに素直に喜びかけたが、
その気持ちをグッと抑えて冷静になり
ここで金を貰うことは何か気持ちを金で買われるようなものではないか?
と、思い直した。
そこで
「いや、金は要らん」
「わ、私の身体で払えというのか!?」
「もっと要らん、報酬としてはお前のゲームを貰う
いや可哀相だから借りるという形にしてやる。
一日一ゲーム借りて行く、良い話だろ?」
いきなりの申し出に、
おふざけをしていてニヤケ顔だった花山に冷汗が伝ったように見えた。
実は前にゲーム機が詰まった娯楽の棚を目にしてからというもの、
一度漁らせて貰いたかったのだ。
「ほ、本気か?」
「ああ、そうだ」
こっちが嫌らしい笑みを浮かべる番だった。
これで娯楽に困ることもないし、
少なからずだが花山から正当にゲームを没収出来る。
やはりお嬢様からは庶民の低俗な娯楽の誘惑を断ち切ってやるべきだ、
俺は良い教師として鬼になる
そうして何だかんだ乗り気な俺は結局家庭教師をすることになった。
もう美咲との公平性とかは
ゲーム借り放題のウキウキで忘れていた。
「な、なあ? 本当に私が一肌脱ぐから――」
「イヤ」
「それで許せ、はりゅううう!!」
泣きべそ令嬢を叱りつけて早速、指導が始まった。
前から始めていたようなものだが
閲覧ありがとうございました。




