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華が咲く

遅ればせ

ドレミは50を数え、運動神経の良い上位者のみが残った。


その中にまだ、二人の姿はあった。


一人は順調なペースで、


一人はやっとの思いで喰らいつく。


この時点で勝敗は目に見えているような気がするとこだろう


だが俺は知っている。


甘ったれた金持ちお嬢様だと思っていた彼女の意地を、


その意地を砕かんとする熱意を。


回数は60へ、テンポはどんどん速まる。


一人は息が上がってきた、


一人は頭が下がってきた。


誰もが驚いた。


あんなに小さい体で食い下がる姿に、


平然とその横を駆ける姿に。


回数は70へ、容赦なく軽快な音楽は彼女たちの鼓動のように速度が上がる。


一人は足の代わりに腕を大きく縦に振り始めて走る、


一人は腕の代わりに頭を大きく横に振り始めて走る。


先生は開いた口が塞がらなかった。


こんなにも振り乱して走る女子を見て、


こんなにも綺麗なフォームで走る女子をを見て。


回数は80へ、回数を告げる女の人の声が鬼の様に今や二人となったランナーを急かす。


一人は汗を拭って息を切らす、


一人は涙と唾液を拭って息を切らす。


俺はもはや見ていられなかった。


クラスメイトの目の前で透けて行く体操服を、


クラスメイトの目の前で人が人でなくなることを。


回数は90へ、俺の鼓動も曲のリズムと合ってきた。


一人はラストスパートを掛けて、


一人は限界を超える辛さを掛けて。


皆は歓声を上げ始めた。


口から荒く息を吐く女に向けて、


口から喉笛を鳴らす女に向けて。


回数は100へ、誰もが拍手を送った。


一人は転がり込んで線を越えて、


一人はヨタヨタしながら線を越えて。


先生は見逃さなかった。


美咲がもう挑戦を終えたことを、


花山が最後に101で事切れたことを。



「ピッッー!!」


力強い笛の音が終わりを告げて、

音楽は鳴り止んだ。

ただ会場を包むは割れんばかりの拍手、

二人の耳に届いているか

どちらもピクリとも動かない中

激戦は終わっていた。






「は、ハルよ...最後に一つ言うことがある」


俺は彼女の手を握った。


「お前を愛し、愛されたこと......誇りに思う」


そう残してアイツの手は俺から滑り落ちた。


それから彼女が目を覚ますことはなかった......




その1日だけ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ナッハハ!」


その翌日には元気に登場した花山の姿があった。

俺が机に突っ伏す横で

それに俺の上に覆いかぶさる美咲。


「重い!」


「ハル...

 あなたになんて言われようと私の想いからは逃れられないんだよ?」


「そっちの想いは良いから、重いんだよ! どけよ!」


結局いつも通りに俺に構ってちゃんしてくる美咲の姿もあった。

勝負とはなんだったのか


「ふん! 

 体はどうにでも出来てもあの勝負に勝って

 ハルの心は私のものになったのだ!

 敗者はそうやって戯れることしか出来ない悔しさを噛み締めるが良い!」


そう挑発すると美咲がすっ飛んで花山と掴み合いに行ってくれた。

花山の言葉は流してやるとしよう......


「偉そうに!

 所詮、体力テストくらいでハルの彼女に

 どっちが相応しいかなんて決まらないわ!」


「負け惜しみが過ぎるぞ、負け犬め!」


ああ......騒々しい。

他所でやって


「「そう思うよな!? ハル!!」」


二人の声が共鳴して響く。

適当に手を上げておく


「「ほら、やっぱり!!」」


隣の騒ぎに耳を閉じる。

勝手にやるが良いさ

仲良く喧嘩しな......


「今度は知力! テストで勝負だ!」


「ふん! 二度目の敗北で泣いても知らんぞ!?」



この時の発言で第2ラウンドが決定したことを俺は


当然聞いていなかった。

閲覧ありがとうございました。

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