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三連体育祭編・65

「この戦いを、船を降りろ......だと?」


「そんなこと言ってないでしょ、おチビ」


「ああ、美咲の言う通りだ。

 まだ戦いたいなら下がって欲しいのは

 ポジションだけだ。

 体力の限界なら、無理せず交代も一つの手だけど」


控え選手にも目線を送りながらの一言に、

観戦客気分でぬくぬくしていた

ベンチウォーマーたちは途端に緊張が走った表情になる。


そんな彼らを知ってか知らずか

彼らには無い、闘志冷めやらぬ

ギラついた瞳で彼女は言い放った。


「交代だけはせん!

 敵が目の前にいる限り、私は一歩たりとも

 退かず戦い続ける!

 それが本家花山の直系である者の務めだ!」


ついさっき自分の失敗で敵の眼前で

気絶して退場してましたやん、という

ツッコミは無粋なのでグッと飲み込んだ。


「まあ、ポジションを下げる提案くらいは呑もう」


「素直で偉いねぇ、エリーちゃん」


「ナトゥのくせに気安く触るな!」


吉沢さんに撫でられて激昂するエリーは

いつもの調子で場の空気を和やかにしたが、

やはり精神面の成長を実感した。

前までの彼女なら己が在り方を突き通した

ところだろうが、譲歩を覚えた。

自分の状況を冷静に分析し、

従うべき判断を見定められている。


腑抜けたベンチメンバーたちを喜ばすのは

癪だが、最初から最後まで

今の戦友たちでケリをつけることを決心した。


「PK戦まで持ち込まれたら負けだと思え!!

 延長戦後半は余力を使い切るぞ!!」


「「おおッ!!」」



相手方はこっちの意図をしっかり組んで

5バックというまさに堅守を誇る陣形に、

それも状況に応じては6にも7にもなるだろう。

まるで強豪チームに対してせめても抵抗として

中堅以下のチームがやりそうな方法だが、

相手はむしろ総合実力では格上。

PK戦でも構わない、という余裕を

ひしひしと感じられる。


こっちが再三マークで潰していた奴らも

天野を除く、四天王メンバーすら

前線から退いて後方に位置している。

最後のプライドなのか、天野だけは

ワントップを飾っているが

都合よくカウンターできた時だけに

機能するものと見ていいだろう


おかげでこちらも一慶と吉沢さんを

解放できる。

この際美咲も攻撃に加えたい。

だが、本当に敵の親玉を野放しにして

よいものだろうか......?


嫌な予感がしてならなかった俺は、

直前に吉沢さんとポジションを交換した。

彼女の器用さなら、この戦いで中継役を

果たしてくれるだろうと踏んだ。


総攻撃を命じておいて最後で前線に

司令塔不在はもう賭けであった。

加えて周りの守備の仲間もいるとはいえ、

いざという時自分一人でアイツを

止められるかは怪しい。


だが、勝つためにやらねばならないことだ


自分よりも少しでも動ける者達を前に、

自分と同じくらいの者を後ろに、

実に分かりやすく合理的である。


何より個人的な因縁も奴とはある。

その勝負を負け越して終えてしまっては、

ただ試合に勝っただけにもなるだろう


だからこそ、仲間に勝機を託して下がった。

奴との決着のために下がった。


危険は自分が排除する。

キーパーとして戦い始めてから

そこは何ら変わることはない。

ポジションは変わっていても

原点回帰というやつだ


この位置でしか見ることの出来ない、

頼もしい背中たちを見つめ直していると

世代最強を決める戦いの笛が遂に鳴った。

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