三連体育祭編・64
適度な助走ってものがある。
思い返せば再び力み過ぎであった。
そんな切り出し方だとまるで自分は失敗したかのようだが
結果は、
「「よくやった!!」」
チームメイトに揉みくちゃにされながら
成功を祝福された。
万力を込めたつもりのくせして
思描いたギリギリのコースとは程遠い
ど真ん中になってしまっただけなのに、
キーパーの意表をついたことになり
入ってしまった。
度胸のある一発のようだが、
偶然の産物だ。
止まったボールに対して
今回はまさかの芯を外したことで、
的外れの力だけのシュートは
さほど浮かないストレートなものとなったのだ。
それもあってか緊張からの解放と共に
浮かぶ笑みは気の抜けた感じであったことだろう。
情けない限りである。
ともあれこれで振り出しに戻すことができた。
この調子ならば逆転するのに時間も十分だ
「このままもう一点いくぞっ!」
脱力感で震える体でも
皆を鼓舞する声だけは張って出せた。
返ってくる皆の瞳に強い気持ちを感じる。
これならばきっと......
と、思うほど甘くはなかった。
的確なマーク作戦で相手から攻められる回数は
激減させられていたが、こちらが攻め手に欠いた。
最初の攻撃で俺とエリーはスタミナの大半を
使い潰し、他のオフェンダーは守備に回している。
開始直後の速攻だからこそ通じたのであって、
そこは最後まで勝ち残った強豪チーム。
疲弊した今の付け焼き刃の様な攻勢では
シュートチャンスすらまともに作れない。
こうなればやはり一慶たちも攻めに
加え入れるしかないかもしれない。
しかし、その瞬間を虎視眈々と
敵である奴らも狙っているに違いない。
それならばもう一度だけでも
相手も疲れてくるであろう終盤に、
エリーとの連携が決まりさえすれば......
そう考えてあれよあれよと延長戦に突入。
そして現在、延長戦の前半もまさかの
スコア動きなしで終了。
互いに切羽詰まった戦況での
最後の作戦会議に入った。
ここで打開策を講じることが
できなければ、実力勝負のPK戦が始まってしまう。
そうなってしまえば、うちは絶望的だ
「だからこそ、もうここは総攻撃を仕掛けるしかない!」
「やるのね、治雄」
「待っていたよ、この時を」
今か今かと待っていた指示に美咲と一慶はやる気だ。
吉沢さんも静かに闘志を宿した笑みを浮かべた。
対してうちのエースストライカーお嬢はというと、
もうだいぶお疲れだ
身体能力を活かすために前に蹴って
追ってもらう形を何度もしたことで、
マラソン大会で鍛え上げた体力も底をついたか
むしろ長距離運動のために遅筋を鍛えすぎて、
瞬発力のある速筋を削ぎ過ぎたかもしれない。
短期間でそこの改善はやはり難しかった。
この大一番で前回の勝利のために今の
勝機を掴みあぐねている。
それでも彼女はこのイベントでも
よく頑張ってくれた。
だからこそ彼女の気持ちと奮闘を考えれば
非情な決断と言わざるを得ないが、
口に出さねばならぬ。
むしろエリーの身体を想うからこその判断だ
「エリー、もう後は下がっていてくれ」




