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三連体育祭編・62

後半はボールがこちらのスタートだけに作戦は

すぐさま遂行に移すことが出来た。


自分が作戦指示をしたのは吉沢さん、

一慶、美咲の三人だった。


主に攻撃で主軸になる彼らだが、

ここではむしろ守備に徹して貰うことにする。

各々持ち場につくと途端にマークされた相手メンバー、

四天王たちは色めき立った。

字の通り奴らの反応は顔の色に出た。

緊張やら困惑やらで明らかに平静ではない。

天野もその例に漏れず、攻守共に派手に

活躍すると聞いていた前評判と前半の動きとは

明らかに違って、消極的にさせることに

成功しそうだ


どうしてこうもマークにつかせた相手の軸となる

四天王たちを混乱させられているのか、という

ネタばらしはとりあえず後だ


ともかく残る相手をどうにかすれば

エリーとなら十分点を取れる。

ただ、相手のエース級を除いても尚

彼らの強さは本物である。


激しい寄せに何度もボールを取られかけながらも

ギリギリでエリーとの乱れまくりのワンツーで

巧みさ等微塵も無い泥臭さだけで前進していく。


他に頼れる味方はいない。

ひたすらに二人だけの世界。

これをどうやらエリーはやりたがっていたようだが、

実際にやってみるとしんどいなんてものでは済まない。

と自分は思うが、毎度息を切らして守り切った主導権を

彼女に渡す時にチラッと見えるアイツの顔は

楽しくって仕方ない、

まさにそんな感じだ


アイツにとってこれは、どちらが迫りくる敵に

先に屈してしまうのか競っているつもりなのだろう。

練習でも似たことをしたが、うちのクラスメンバー相手では

そこまで必死にならずともやり切れた。

それが今では体格も運動能力も自分以上の相手に

根性だけでぶつかっているのだから、

体力などとうに尽いて気力だけが頼りである。

そのことはエリーとて同じはず......


そんな中でも楽しそうなアイツを前にして、

もう自分も汗だくで笑うしかなかった。


そうしている内に不思議な感覚に陥った。

ゾーンというものなのだろうか、

そんなカッコイイものではなかったかもしれない。

変に都合がいいことに、感じ得る鼓動は

一つではなかった。

エリーとの息が合っていくのを感じた。

向かってくる人間たちは、なにか

無機質で機械的な障害物でしかなくて

ゲームでもやっているかのように

するすると自分達は前へ前へと進んで行く。

肺の苦しさも忘れて、いなしていく


気付けば向かってくる障害は

残すところ一つになった。

何としてでも止めようと自分よりそのずっと大きな

何かが立ちふさがる。

後ろには超えてきたものが背に迫ってきていて、

退路すらない。

ここまでかと頼みの綱の気力も切れかけた時、


「ハルッ!!」


ずっと感じていた唯一の味方の声が、

音も色も失った世界を打ち破って

最後の力を振り絞らせた。


「エリー! 任せたぞ!!」


「私たちの絶技を、見せてやる......!」


エリーのやりたがったものの締めは

この必殺技まがいのデタラメシュートだ。


失敗のクリアかと思われるような角度で打ち上げた。

シュートともパスとも呼べない代物を

彼女はずっと待っていた。


「とうっ!」


誰もが飛び上がったエリーに目を奪われ、

そして思わず視界を光で奪われた。

無論彼女の威光などではない。

青々と広がる秋晴れに煌めく太陽光が

彼女を隠した。


そしてゴールに背を向けると

そのままオーバヘッドキックへの姿勢へと移行する。

無謀とも思えるその試みは、

落ちてきたボールに見事寸分違わず

ジャストフィットさせたシュートを成功させることによって

見る者全ての度肝を抜いた。


空中であんな芸当が出来るのは、

何時間もそんな技に付き合わされた俺の時間の犠牲、

そしてアイツの呆れるほどの飽くなき探求心があってこそだ



「これが私たちの絆、いや愛の一撃だ!!」


耳を塞ぎたくなるような恥ずかしい文言と共に

必殺シュートが今、過たず放たれた......!

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