三連体育祭編・61
ボールを投げ込む場所は事前にスローインをする
メンバーに指示を出しておいた。
しっかりその通りに向かった先は美咲の方角、
絶賛天野のマークについていることもあって
裏を返せば天野にとっては誰よりも自分が
防がなければならないコースだ。
であるにも関わらず、らしくなく奴の動きは鈍かった。
難なく胸トラップで受けた美咲はゴールに迫る。
驚いたのは相手の最終ラインの者達だろう
まさか頼れるエース兼キャプテンが大事なここ一番で
相手一人にあっさり出し抜かれるなんて、
動揺のほどは表情からも分かる通りだ。
そんな状態で止められるほど、うちの副エースは甘くない。
唯一の相手女子DFを力任せに突破すると
十八番のシュート体制からいつもと違って力強い回転を伴った
ボールが相手ゴールを襲った。
キーパーは捉えきれず入ったかと思われたが
ここで回転が仇となったか、軌道はいつもより下がらず
ポストに弾かれて地面に叩きつけられ、チャンスは無駄に
なったかと頭を抱えかけた。
が、球がバウンドすると
同時に飛び上がった影が見事に頭で押し込んで
ネットを揺らした......!!
一瞬、その跳躍力からエリーかと思ったが
すぐ隣で四天王の女にガッチリマークというか
もはや羽交い締めにされて動けずにいて
自分が決めたかった、と本人は悔しそうな表情。
振り返って笑みを浮かべた影の正体は、
「吉沢さん!!」
「ナツもやっと一点ゲットできたよ!」
わーっと駆け寄って危うく嬉しさのあまり
公然ハグをやらかすところだった。
直前で急にストップしたことで、未遂になった
かのようで彼女から一方的にされてしまっては努力の甲斐なく
ギャラリーは面白半分に大いに囃し立てくる。
そんな中で背中に突き刺さる冷たい二つの視線は
もう無視するしかない。
抱き着かれて感じる温かな柔らかさも
今や自分には極上の猛毒だ。
鼻の下を伸ばしているのがバレたら
正面に感じる熱に反比例して背中にぶっ刺さる
凍るような殺意がより増すことになるだろう
もったいない気分もありながら
急いで吉沢さんを引きはがすと、
ヤンキーの集団を通り過ぎるように下を向きながら
そそくさと自分だけ自陣に戻る。
その最中、確かにもう一つの
感情のこもった視線を受けたのを感じた。
少し振り返ると、意外にもそれは四天王の男であった。
さっきまで剽軽な感じであったのにどこぞの
痣剣士がキレた時の様に、目のハイライトを失くして
無表情の顔をこちらに向けた男の負の一面をしかと見た。
そこで確信した。
四天王並びに天野という天敵が誇る強さの源と
それに伴う脆さを。
最初は嫌がらせを楽しむだけの悪そのものが奴らの正体だと......
実態はそんな信念のないものではなく、
かといって高尚なものでもない想いの力が関係している。
そしてそれは逆手に取ることもできるものと分かった。
ならば勝負は、
「後半から楽しみになりそうだ......」
前半最初に向けられた不敵な笑みをそっくり返すと
ここで前半終了の笛が鳴らされた。
休憩に入ると即座に作戦はキーマン達に伝えた。
と言っても内容は至って単純、美咲の時と同じく
各メンバーを特定の人物のマークに割り当てるだけ。
ただそれだけで奴らは瓦解する。
敵陣営に目を向けると調子と連携の巻き直しにクールさを
演じてる余裕はさほどない様に見えた。
ギャラリーはそれに気付かないで絶えず
黄色い声援を浴びせて応援しているつもりだろうが、
むしろそれがプレッシャーになっていること等
知る由もないだろう
開戦前後はあんなにも隙の無い完璧集団に見えたのが、
今や射程圏内に捉えた格好の標的と化している。
スポットライトの当たった者達に恥をかかせることは
当然趣味ではないが、ここでご退場願うとしよう
「後半で一気に決めて、俺たちが一番だ!!」
「「おおっー!!」」
円陣の掛け声もそれっぽく決めると、
決戦の後半へと皆で走り出した。




