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三連体育祭編・60

そもそも身長では代役の彼の方が高いのだから、適任者はどう考えても

もはや自分ではなかったのだ。


今になって何故こんなことをぶつくさ心で唱えているかというと、


「うおおー! まず一点と天野君が指を一本、天に突きあげたぞ!!」


「「きゃああー!!」」


周りの大騒ぎの通り、あっさり一発やられてしまった。


ある程度の時間はこちらが敵陣で時間を使えていたのだが、

うちのメンバーの甘いパスを颯爽と奴が奪うと単騎で

そのまま俊足に物を言わせて突っ込んできて、

俺との因縁の一対一が実現。


絶対に負けられない、その瞬間。


力んだ俺を小馬鹿にするようなふわっとしたループをお見舞いされ、

すっかり引き立て役にされると

人差し指を空に掲げたアイツの背中を憎々しげに見つめる

冴えない男がポツンといるだけとなった。


そう、ただそれだけだ。

冴えない俺にとってはつい最近まで日常だったものだ


「ど、ドンマイ......」


息を切らしながら慰めてくれる一慶。

守備の要はこの友人に託していたが、

マークを他の選手に移していた一瞬を突かれて

奴に飛び出されては追いつけるはずもなかった。

むしろ試合時間を折り返そうとする今の時間まで

一慶はよくやってくれた。

現段階までで極力後ろから見える範囲で、

相手の守る形のデータは掴めるだけ掴んだ。


「時間は少ないが、速攻で前半の内に取り返すぞ」


「な、何か策は?」


「俯瞰で観察できた俺が中継役をやるなり、牽引する他ないだろう

 と、なると......」


わざとデカい声で会話して優男の代役キーパー君自ら

交代を申し出てくる様に仕向けた。

我ながら清々しいほどの悪い男だ


結局奴に放たれたシュート三本の内、

まともに防げたのは最初の一撃だけ。

二発目は友人に助けられ、三発目はものの見事にやられた


これでは負け越し、だがそんなことに頓着していられない。


勝負に負けても試合で勝てば、それで良かろうなのだ......!



再開のホイッスルが鳴った。

こちらとしては試合の前の話し合いで後半から俺が攻めに加わる手筈だった。

それがもうポジションが変わった今、事態が急を要するものと

語らずとも周りの友人たちは理解してくれた。

あるだけの体力を使っての総攻撃体制はまさに

笛の音と同時であった。


これには流石の敵も素早い対応が遅れた。

これならば慣れないパスワークを無理やり俺が中継するまでもない、

そう判断してエリーに主導権を渡して突き進ませた。


スピードに任せて突き進んでいく能力を発揮した

エリーを止められる者はほぼいない。

そのエネルギーの詰まった小さな体に

野性味もありながら、卓越した足技が加わると

まさに南米の伝説的プレイヤーかのようだ。


思えば血統のサラダボウルである彼女のことだ。

冗談ではなくそっちの血も本当に混じっているのやもしれない。

そう思うとぐんぐん敵陣に切り込む背中がより頼もしく見えてきた。


「後れを取るなよ! 私についてこい!」


腕を力強く振り上げて後続を鼓舞する姿は輪をかけて

恰好こそよいが、振り返って白い歯まで見せているようでは

お調子に乗りすぎだ


「どこを見てんのよ、おチビちゃん!」


「ぐえっ」


相手の四天王が一人、天野の側近の女にガッツリ

タックルをかまされてひっくり返った。

この女は一慶のクラスの四天王と違って、

エリーラブ組合だか何がしかではないらしく

容赦がない。

だが隙があるのはお互い様のようで、


「君こそ油断大敵だよ......!」


「なっ!」


颯爽とフォローに入ったのはもちろん一慶だ。

性分のいたずらっぽい笑顔を浮かべる時は、

彼の調子のいい証拠でもある。

華麗に奪い返すと、すぐさまぶっ倒れているエリーを追い抜いた

第二のエースである美咲にボールが鋭く通された。


「このままアタシが決めてや――」


「そうは問屋が卸さないってね!」


お次は四天王が一人、第二の側近の男が

カードスレスレのスライディングをかまして相手チームの

窮地をしっかり救ってしまった。

ボールはタッチラインを割って、

その間にすっかり陣形を組み直されたことで

急襲による有利が無くなってしまった。

試合前の見立て通り守りの動きも一級品のようだ


「ちぇ、あとちょっとだったのに......」


「動きは良かったんだ、次決めてくれればいいさ」


「決めたらご褒美にナデナデしてくれてもいいのよ?」


「勘弁してくれ」


そうは言いつつも、この状況を打破してくれるなら

公然ナデナデなど安いものだと言えるほどの劣勢だ。

もう前半を終わるまでは一切攻めは捨てた、と

言わんばかりの全員守備には辟易とする。


ただ、弱みとなる穴かは分からないが

気になるところがないわけでもない。


「なんかアイツ、腰巾着の男を一瞬叱ってなかった?」


「クールを気取るあの天野が声を荒げるとは......うーむ」


怒られた男は何度も頭を下げつつ笑っているが、

そもそも平謝りになるどころか不当の扱いだと

怒り返すことこそ正しいリアクションであって、

ちらりと見せた天野の行動はどう考えてもおかしい。


むしろ褒められるところを何故怒ったのか......まさか


「何か閃いたって顔ね」


「長い付き合いとはいえ、顔色一つで読み取られるのは

 不気味ってもんだ」


「なによ、文句あんの?」


「文句はないが、ちょっとした作戦はある。 

 とりあえず今から天野のマークについてくれ。

 奴の周辺にいてくれるだけでいい」


一瞬怪訝な顔をしたが、彼女はすぐさま指示に従ってくれた。

すると予想通りの反応を天敵は見せ始めた。



どうやら勝負はここからのようだ

スマホだと改行が殊更不自然なことに今日初めて気付きました......

本当に申し訳ない。

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