三連体育祭編・57
「残り時間は多くない! 踏ん張るぞ!!」
「「おおッ!!」」
気を取り直してリーダーシップはしっかり取らせて貰う。
ボールは友達、と豪語するまでにサッカーを最近お気に召し始めていた
エリーお嬢様が友達だったものに裏切られたこともあり、
その事実から少しでも目を逸らそうと本人は
「だ、だいじょうび」
呂律も回らないのにいけると言っていたが、やはり一旦下げることに。
それに交代してDFを増やせるので都合がいい。
あわよくば試合終了時には多少回復していて欲しい。
どこからともなく現れたいつものメイド達が酸素ボンベを
強引に過剰吸引させたり、荒療治に専念してくれていることだし
任せてよかろう
とにかくここを勝たなければ、無様な形であれ貢献してくれた
彼女を再び戦いの舞台に立たせてやれなくなる。
主要な攻め手を失った今、耐え忍ぶしかない。
自分もDFにまでポジションを下げると、相手の猛攻の
開始の笛が甲高く鳴らされた。
その後は死闘が繰り広げられた。
敵の司令塔である四天王が今まで以上に指示を飛ばし、
その指揮に沿った相手選手ばかりマークしていると
気付けば、忘れている一慶が何度もゴールに襲い掛かった。
カウンターの気配すら匂わせる程度で、こちらに
ほぼ追加点を取る気がないことを悟られると
それはもう激流が如く敵が押し寄せてくる。
試合のほとんどは自陣のハーフコートで行われて、
人口密度の高さから互いに機動力は失われ、ひたすらに
蹴り合う子供のサッカーに成り果てたことは語るまでもない。
ただ、こうなった時に有利なのはやはり守る側だ。
この窮屈さでは得意なパス繋ぎも困難そうで、
正面切っての突破ができる選手はフィジカル面の分析で睨んだ通り
いないようで、痺れを切らしての仕掛けは空回りを繰り返した。
焦りからか脅威だった相手の統率力も落ち始めていた。
そもそも主柱であるはずの指揮官がエリーが下がった時から
自分がボールを持った瞬間、強く当たってくるようになった。
何か私怨を感じる、激情に任せた策の無いタックルだ
そうして身体を打ち合わす度にあることに気付く。
どうあれ勘付いたことも合わせてそのひょろい宿敵に
当たり負けする訳も無く、何度か相手をしてやっていると
試合終了ギリギリになって攻めの勢いに衰えを感じ始めた。
疲れもあるだろうが、指示役が俺にお熱のおかげで
次の一手を待たされているように思える。
息の荒い四天王を軽くいなしながら相手の陣地を見やると
あまりにも手薄のご様子だ
恐らく攻められることはもうないと完全に油断し切っている。
好機とばかりに吉沢さんに視線を送ると、意図を察してくれたのか
いたずらっぽい笑みを浮かべながら貰いに来てくれた。
さっさと渡すと急いで駆け出し、オフサイドになりそうな寸前で
ボールを前に蹴りこんでくれたのを確認した。
並走して防衛に徹しようと懸命に走る相手DFを加速で突き放し、
ほぼキーパーと一対一の状況でボールを受けると
利き足しか使えないので一つのコースにこれと決め、
冷静に左隅に右足で流し込んであっさりとゴールが決まった
その直後キーパーとの追突を避けるのに足がもつれて
転倒しなければ完璧なムーブメントであった。
自分らしいカッコ悪い止めの一撃だったが、
「ハル最高っーー!!」
遠くでもう既に元気そうに喜ぶエリーと大騒ぎなクラスメイト達を見て、
傍から見れば少しは様になっていたのだと安心できた。
この追加点と共に終了のホイッスル。
結果は3-1。
スコアの見た目以上に接戦の勝負だった。
主導権はほとんど握られ続けて苦しい戦いを強いられたこと、
今日一番の激戦であったことはまず間違いない。
そうした目まぐるしい試合展開から取り囲むギャラリーは
もう一つの試合より多いように思え、それだけ
拍手も大きく感じられた。
これも大きな要因として忘れそうになるが一慶、
そして四天王の一角であるヤツの存在もある。
試合が終われば互いを讃えるのがスポーツマンシップ、
乗り気ではないがそれに則って未だ俯いて座ったままの
宿敵に手を差し伸べた。
「まあ、いい勝負ができて良かったよ」
「......ふん」
払いのけられたがその力はあまりにもか弱い。
座り方、そして戦って気付いたことからも
既に疑いようがなかった。
「女の子座りして落ち込む選手とは思えないくらいには
ガッツのあるプレイだったな」
「なっ」
指摘されるとし慣れていない胡坐で誤魔化し、
そっぽを向きながら恨めしそうな声で名の知らぬ
女は語り始めた。
「エリーちゃんを苦しめるキサマなんぞとは慣れ合わん」
「え、エリーちゃん? まさか......」
「そうだ、非情なキサマが歯牙にもかけなかった可憐な乙女だ!」
丁度こっちに振り向いた噂の彼女が
こちらに嬉しそうに駆けて来ようとしている。
確かに中身を知らなければその姿は可憐だ。
「日陰から見守る、我らエリーちゃん見守り隊の副リーダーとして
彼女という太陽の近くに居るわけにはいかないのでここは退く......
だが、覚えとけ!
彼女を見ているとき、キサマも我等に監視されているということを!」
早口で立ち上がるなり、もつれた足で去っていく。
最後のおまけとばかり振り向きざまに、
「これで勝ったと思うなよ~!」
今までの中性的な声から一気に女の子らしい
可愛い声になって定番の捨て台詞を吐くと、
ヨタヨタと消えていったのであった。




