三連体育祭編・55
読み通り、相手は陣形を変えて来ていた。
前線の増強より中盤を厚くして、守備を減らし
よりじっくりと攻撃をしやすいフォーメーションに見える。
それでこちらを脅かさんとしたのだろうが、
あっちの方こそ驚いたことであろう
何故ならば、
「なんで君が......」
「よお、一慶。 今度は俺たちの番だ」
対峙する彼との間合いはあまりにも近い、
同じFWに俺がなっていたのだから......
呆気に取られた一慶の後ろから眼鏡を掛けた細見の髪の長い
男か女か分かりずらい奴が現れた。
見た目からしてこっちを苦しめてきた、相手のブレインだと分かった。
ゴールを守っていた時は敵の外観など気にしている余裕など
なかったが、こうして視れば一目瞭然だ
「これは驚きましたねぇ、キーパーしか取り柄が無いのかと」
「......まさか、お前は――」
「四天王、とだけ言えば分かるでしょう? では」
中性的な声で短く言い残し、歩いて行った姿はまさしく
互いに敵対視する天敵であることは疑いようがなかった。
しかし、天野という男と同じクラスではなかったとは......
もしや四天王は皆一堂に会している訳ではないのか、と
考えを巡らしている最中、ホイッスルは鳴った。
「ゆくぞ、ハル!」
ボールを転がされ、すぐさま後ろに渡した。
とりあえず下らん宿敵どもについて悩むのは後だ
前に駆けだし、すれ違い様に睨みつけてやった四天王の一角の
奴の顔には人を小馬鹿にした様な笑みが浮かんでいた。
恐らく奇策による、こけおどしと高を括っていることだろう
だが、そいつは立派な誤算だと教えてやる
「美咲ちゃん!」
今日はずっと縁の下の力持ちとして陰ながら頑張る
吉沢さんが美咲へとパスを通した。
ボールを受けるとすぐさま颯爽と上がってくる
シュートもだがドリブルも結構アイツは出来る。
自分がボールを回す中心としてMFをしても良かったが、
とりあえず未だ連携が覚束ない新参者に任せるよりも
慣れた者同士で前を張る方が進展は早いと考えた。
敵が迫ってくると球を右サイドの味方に逃し、一気に
敵陣営の奥にまで駆け上がらせる。
ここは一度センタリングからのプレイを試したい
貰いには寄らず、
「皆! ペナルティエリア付近に!」
数を集める指示を周りに出すと、
ゴールライン手前ギリギリまで走った味方から
絶妙なタイミングでボールが自分の方に蹴り込まれた。
空中戦では勝てずに相手がクリア、
したかに思われたが競ったかいもあって球は強く弾かれることなく、
第二の矢として上がってきていた美咲が拾ってくれた。
ほんの一瞬の膠着、
攻め手は多いが誰もがマークにつかれている。
溜まらず強引に打ったシュートは前戦ほどのキレは無く、
枠にすら掠らず相手ボールとなってしまった。
もはやこの試合はターン制だ
敵の攻撃が始まれば、全員守備しかない。
自陣に引き上げながら不調の幼馴染に話しかける
「どうしたよ? 俺を苦しめてくれたシュートは」
「走りながらじゃないとアレ打てないのよ」
「......普通、逆じゃないか?」
普通静止したボールに打ち込む技として始まるもの
なのだが、彼女は止まった状態からだとまるで素人だという。
つまり順序が滅茶苦茶だ
「とにかくそういうことなら、カウンターの流れからの方が
美咲の得意技には合ってるかもしない。
なんとか守り切ろう」
「はあ、守る時間は嫌なもんね」
「好きな奴なんていないさ、さあやるぞ」
会話の途中から相手の四天王を観察していたが、
しっかりとポジションの指示を仲間に逐一出しているようだ。
こちらの傾向を掴んで修正しているのだろう、非常に厄介だ
前2戦でもギャラリーの中に熱心に見る者は何人かいたが、
その熱烈な視線の主が奴だったならば、やはり今回の
攻めの要はデータの無い自分になる。
今身長が足らずにボールにも絡めなかった危険視する
価値も無いプレイヤーと踏んでいるならば、むしろ助かる
守備さえ安定すれば、後はこっちのもんだ
そう前向きとも楽観的ともいえる考えは甘かった。
こちらなりにもパス回しに対する攻撃の対処法はしていた
つもりだったが、さっきとフォーメーションが違えば
通されるコースも変わってくる。
おかげで翻弄されて皆ヘトヘトだ。
自分達の支配率なぞ30%もあるか怪しい、
一方的な試合展開......
だが、勝つのはボールをより支配していたチーム
とは限らない。
そんな前向きに構えても幾度足で、頭で、
背中で防いだことか
またも腕は使えないので必死に伸びあがって
頭で決定打を阻止すると、相手のコーナー。
そしてセットプレイには唯一より感知できる自分が直接、
一慶をマークしなくてはならない。
地獄の時間はまだ、ゆっくりと続いていく......
ブックマークが555達成!今すぐ力尽きても良いくらい嬉しいです。
出来る限り、今後も頑張りたいなぁ




