三連体育祭編・54
何故あそこで因縁の相手に素直にパスが出せたのか、など
うちのストライカーにインタビューしたいことはあったが
まだ前半。
浮かれている暇もなく、再開のホイッスルは鳴り響いた。
当然さっきの如く相手がするするパスを通して上がってくる。
同じ手法で来られてもとても対策出来るものではない。
成すすべなく先ほどと変わらない状況になっていると、
今度は遠目からでも無理やり撃ってきた。
こうしたシュートは何度も経験している。
美咲戦問わず一回戦も変わりはしない。
こいつは僥倖、とばかりに容易くパンチングで弾いた。
それを即座に前に出して欲しかったが、焦ったDFのキックは
宙の球を掠るだけで相手のコーナーキックになってしまった
多分これを狙っていたのだろう。
混戦になれば俄然不利だ
すぐに点をやるわけにはいかない。
犬猿の仲の二人が取ってくれた、このリード。
簡単に潰されはしない!
そうカッコ良く意気込んだ俺はフラグにはせず
見事な反応を見せた、と後の自分は思った。
嫌らしい軌道で入った球を相手が頭で合わせてきた。
「くっ!!」
咄嗟にそれを飛んで必死に掻き出した。
あとは何とかクリアしてくれれば......!!
そんな願いとせっかくのスーパーセーブは、
「悪いね......!」
すっと幽霊の様に伸びた足があっさりとボールを
再度押し込んできて、初めての失点を許したことにより
報われなかった。
呆然とする中、相手選手の喜ぶ声が聞こえる
責められるものではないだろうが、誰かに
叱責して貰いたいくらいだった。
そもそもコーナーになってしまう可能性を持った
パンチングを選択したことも良くなかった。
打ったのは一慶ではなかった訳で、そこまで
臆病にキャッチを怖がる必要もなかったはずである
それでも周りのDFはもちろん、エリーやあの美咲にも
仕方ないと慰めの言葉を掛けられたように思う。
判然としないのは悔恨の中に居たからだ
引き摺っているようではまたやられてしまう。
自分の顔を両手で叩くと同時に試合は再開した
その後は死に物狂いで守った。
最初の点のおかげで皆のテンションも高かったために、
守備にも力が入っていたように思う。
一丸となって防衛した事でまるで攻めに転じることは
できなかったが、それ以上の失点は許さず
前半を終えることが出来た。
後半開始の休憩時間までは10分と無い。
急ぎ、水分補給もそぞろに会議が始まる。
「このままではいずれ負ける! 私にボールを回せ!」
「試合途中にそう叫ぶから渡したら割とすぐ取られるじゃない......
アンタ分かってる? 敵にマークされまくってるのよ、喚くから」
「む、人気者は困ったものだ」
「ツッコミ入れる体力も惜しいわ......」
喧嘩ばかりの二人の漫談にメンバーの空気は和んでいるが、
このままでは根本的な解決には向かない。
かと言って今胸に抱える秘策をここでもう伝え、
使うべきなのか、かなり葛藤している。
フォーメーションをカウンター狙いに切り替えたり、
とにかく5バックや守備の人員を増やすなど考えたが
いつかはやられる延命処置にしか思えない
それに相手の中に頭の回る奴がいるのなら、
恐らくこちらの防御を崩す陣形に変えてくることが予測される。
ならば、むしろこっちから打って出る他あるまい
「皆に提案だ」
中には半ば諦め気味とも憔悴気味な者たちの
視線を集めながら、自分だけは勝利を諦めていない瞳で
取って置きたかったとっておきの作戦を力強く語った。
酷く驚く者や考え直して欲しいとの主張もあったが、
一人嬉々とした反応を返してくれる存在もいた。
「あの修行も無駄にはならなかったことになるのだな!?」
「まだアレをやるかは分からないが、ギリギリになったらやむを得ん」
皆目検討がつかないといったように首を傾げ、
エリーだけはワクワクした様子で興奮冷めやらぬまま
配置につきに行った。
「本気なの? 相手の守備能力は未知数なのよ?」
心配した美咲の真っ当な意見も聞きつつ、
こう返すしかなかった。
「なんとかしてみせるさ」
未だ不安そうな彼女とメンバーを背に、後半開始の招集の笛に応じ
ゆっくりとセンターサークルの方へ歩みを進めるのだった。




