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三連体育祭編・53

超攻撃的な姿勢でいくと腰を据えたこちらの3トップを

嘲笑うかのように上回ってきた相手に、自チームの誰もが

動揺を隠しきれていない。

ギャラリーのサッカーに詳しくない者たちでもざわめき始めている


「あれ、あんなに前に人いたっけ」


「うちの軍師様の考えることは分からないねぇ」


ゴールネットの背後のギャラリーの声から察するに

どうやら曲者がいるらしい。

今すぐ振り返ってお尋ねしたいところだが、

そんなコミュ力もなければ教えてくれる訳が無い


一慶は最も右に位置するFWとして布陣している。

さっきまでだったらそこに注意を傾ければ良かったが、

軍師様とまで謳われる存在がいるとしたら、

こちらの情報をある程度掴んで陣形を変えてきていたなら、

左にこそ有力な選手を置くのではないだろうか


ホイッスルが鳴る寸前まで皆の混乱が続いた挙句、

浮足立った状態で相手の攻撃を受けることになった。

今までのような調子に乗った男子が突っ込んでくる様な

子供っぽい攻めではなく、しっかりとパスを通して上がってくる。


あっさりと中盤は抜かれて最終ラインに迫ってくる。

それもワイドに展開した4人が一気に


「簡単に抜かれるな! ラインを維持しろ!!」


指示の通りDF達は壁になってくれているが、ゆったりと回すボールは

獲物を前に舌なめずりをしているかのような余裕を感じさせた。

一慶に集中していないと見失ってしまうが、余計な情報が

入ったせいで左も蔑ろには出来ない。


まさか決勝まで感じることはないと思っていた緊張感に

息を忘れていると、一人が強引にペナルティエリアへの

侵入を試みてきた。

そこは間一髪新加入の選手がボールを奪取して

辛くもゴールラインぎりぎりのタッチラインに球を逃がした。


プロの試合の様に新しい球がスタッフから渡されることもなく、

相手チーム選手が嫌々ボールを取りに行く時間の間

誰もが顔を見合わせた。

身も顔も引き締まった者もいればマジかよと苦笑する者もいる。

皆今までとは相手が違う、と認識したことは確かだった


改めて指示を出し直す暇もなく、さっさとスローインされると

独りでにボールが動き出した。

そんな訳はない、一慶であった


自分にはそれが瞬時に理解できたが、DF達は一瞬当惑した。

その隙をついて軽い足技でラインを破ってくると

即座にシュートが放たれた。


「させるかッ!!」


思いっきり飛び上がった先の両手でガッチリと掴んだ。

そのまま転がれば自分ごとゴールラインを超えるところであった。

まさに間一髪、訓練を積んでなければ絶対に防げないシュートだった。


不敵な笑みだけ残して一慶は戻っていき、周りもいつの間にか

随分と下がっている。

気配を消すことを相手全員が習得しているのではないかと思える統率、

次こそ無失点を守れなくなるかもしれない


そんな不安が過るとすぐにでも実行に移したいことはあったが、

あまりの身勝手さに保留にした。

今はともかく、


「頼んだぞ!!」


思いっきり前に蹴り飛ばした。

点を取られる前に取るしかない、故に

前線の彼女たちを信じるしかない。


空中戦は見事に持ち前のジャンプ力で制すると、

そのまま流れる様にエリーが上がっていく。

小さいが頼もしい背中だ


相変わらず自分よがりのファンタジスタの気分で

不器用にも相手を抜き去っていく。

あのままではいつも通り遠目でも強引に打ちこむ形になってしまうと

心配してみていると、


「力を、見せてみろッ!!」


まさかのパス、しかもその相手は


「えっ!?」


貰う側の本人すら驚く美咲だった。

あまりのことに焦ってダイレクトキックになる。

それが上手いこと相手の意表を突き、

ミートしきらないシュートは威力はさほどないものの

回転しながら浮いたボールは枠ギリギリのコースを描き

ネットを揺らした。

その後倒れ込んだキーパーと美咲は砂塵にまみれた


「よっしゃああ!!」


まさかのゴールにDFも何人か喜んで走っていった。

俺も無論嬉しかったが、幼馴染の泥臭いシュートには

その場でやはり笑うしかなかった。

美咲もすぐさま立ち上がるといつもの取っ組み合いを

エリーとし始めた。

聞こえてくる声は明らかに、


「事前アイコンタクトも無しに出す奴があるか!」


といった趣旨の文句であることは間違いなく、

対して


「アシストしてやったんだから感謝しろ!」


と令嬢様がおっしゃられているのは読唇術など無くとも

容易に分かった。


何はともあれ、

不格好ではあったが一点は一点。


欲しかった先制点はこちらが取れた


にもかかわらず、相手のさほど焦った様子がない

不気味さに心から喜べるに戦況に未だないことは

想像に難くはなかった。

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