三連体育祭編・52
ごちゃごちゃ考えている内にもう試合開始はすぐそこまで来ていた。
それでもまだみっともなく悩んでいると、
「まさか戦えるとはね」
「......ああ、一慶」
「どうしたの?具合でも悪い?」
いつもと変わらない友人が話しかけてきた。
互いの勝利の重さの差は歴然であろうが、
ここまで来れば少しの緊張はあっていいだろうに
まるでそれを感じさせない
自分の得意な競技でこの程度の舞台は慣れているのかもしれない。
そのことがまたプレッシャーに感じる。
それをおくびにも出さないためにも軽口をたたくが、
「今までは透明人間みたいに好き勝手出来ただろうが、
そうはさせないからな」
「それはむしろ嬉しいな、味方にすら認識されずらいからね......」
「うちのチームに来れば存分に目立てるぞ?」
「僕たちのチームがもし負けたら、楽しみにしてるよ」
勧誘虚しく、自身だけでなく今のチームにも自信があるようだ。
徹底した対策を講じて、少し気の毒だが影の薄いままご退場
&こちらに取り込むことにさせて頂こう
そう、この時ばかりは一慶にだけ注意を払えばいいと
美咲戦と同様な心づもりでいた。
伏兵のような友人こそがデコイだとも気付かず......
遂にベスト4にもなると、注目度も高まって
いつもの通り周りが騒がしくなる。
ここまで来ればギャラリーを気にすることは無い。
どうせ奴も勝ち上がってきていて、もう一つの戦いに同刻
身を投じることになるはずだ。
とにかく今は目の前の試合に集中するだけ
改めて一列に相対してみると、一慶の希薄さは群を抜いている。
自分からはそれが反対に目立っていることになるが、
混戦になれば見失うのも納得がいく。
そしてこの時ばかりも真に注意を払うべき人物を無視して
いたとは夢にも思わなかった。
試合開始直前、士気高揚のためにも円陣共に
今一度作戦会議が行われる。
「前戦の通りなら相手のフォーメーションは守備的な形で始まり、
後半になるに連れて中盤を攻撃に回してくるタイプだ。
俺たちは最初の内に点数を取って、逃げ切る展開を作りたい。
後半は守りに徹する厳しい時間になるが、前半にリードを取れれば
ずっと後が楽になるはずだ! 最初から飛ばしてくぞ!!」
「「おおッ!!」」
はっきり言ってうちのチームは終わりまで機動力を持続できる
チームではないと言える。
やる気の低いメンバーもいることも要因だが、単純に
序盤からフルスロットルのお嬢やらそれに負けじと張り合う者、
そやつらをフォローする者で消耗が早いことが予測できるからだ
ならばエリーにマラソン大会で習得させた大逃げ方式に似た
作戦というのも憚られる暴走で押し切るしかない。
先ほど見た相手の面々で体格からして勝ち目のない者がいないのを
確認したことから、強引な策を取ることとした
前戦とメンバーの確認から相手の出方は様子見、
大方守備的と高を括っていた。
それに間違いがなければ美咲も加わった今の我がチームなら
容易くゴリ押せると思えた。
だが試合開始から度肝を抜かれることになる
「4トップ......!?」
現在では使われることがないと言われる破滅的な攻撃布陣が
目の前に広がっているのであった
ありがとうございました。




