三連体育祭編・46
目を覆いたくなる惨状とは、まさにこのこと。
殲滅戦と化した試合の中で見えてくるのは
辛くも躱した先に待つ外野の攻撃力、
剛力の攻撃を上手く弾いて天野に渡せるだけの
奴以外の内野の防御力、
選手層の厚さの差は明らかであった。
そして試合もそろそろ終盤という時に、
やはり奴が決めに来た。
「司令塔もこれで最後だ!!」
発言共に天野が狙い定めた先は明らかに有希さんだった。
守るように剛力が一歩前に出る。
その行動にニヤリと口角が上がった様に見えたのが
気のせいではないことを思い知る。
奴は飛び上がり、まるでハンドボールの選手の様なフォームを取った。
当然それに釣られて剛力の上体は上がる。
そこを突いて弾道の角度をかなり低く放ってきた。
試合前に聞いていたのだが、剛力の唯一の弱点である
移動速度の遅さは昔にそのあまりの巨体に足、
特に膝を悪くしたことがあったという。
それもあってかスポーツで激しい動きだけは
精神的にもできなかったと聞いた
そのことを知ってか知らずか、膝が悪いために
咄嗟に屈めないことを利用して天野という男は
剛力の足元目掛けて攻撃をしてきた。
意図は理解できても体を瞬時に動かせられないのであれば
成すすべなく、しっかりと着弾してしまった
尚且つあの低い位置での当たり玉をカバーできる人間などいない。
あの不沈艦とも思えた巨躯の男が終盤で遂に倒された。
それによる自チームの動揺、それに反比例するかのように
会場はドッと沸きあがった
体格だけを見ればジャイアントキリングだ。
色めき立つ声には賞賛やら黄色い声やらで
まるで奴が爽やかな勇者のようである。
だが悪役なのは決して剛力ではない。
今注目の的である天野こそが、倒されるべき
存在であることは確かであるのに......
その後はうちのクラスの男子が女子を健気に守るだけの
消化試合の形での幕切れであった。
あっさりとした負け、それだけならばまだいい
何も知らない会場の人間は勝利したチームを大いに褒め称えた。
天野という男は気に入らないが、奴のチームの人間も
そして奴自身も試合中に反則的なことはしなかった。
だが、賞賛に値するほど身の潔白を証明できる人間ではないと
自分だけが知っていることが孤独感と悔しさを滲ませた。
クラスの者だけでなく多くの人間に囲まれ、外面だけはいい男を
遠目から僅かに睨みつけることしかできない俺......
一番の怒りをぶつけたい相手は無力な己自身だったのかもしれない。
試合終了後、うちのチームですら天野のチームを素直な気持ちで
褒め称え、ほとんどの者が裏で何が起こっているか等まるで
知らない様子だった。
ただ何名かは違和感はあったようである
「あの相手のキャプテンのイケメン、案外イヤらしい野郎だったよな?」
「ゆーて俺らが指摘しても負け犬の遠吠えにプラスして
色男に対する僻みとして受け取られるだけだろ」
「それもそっか......」
どういう奴か本性は感じ取りそうにはなる、が
それ以上の深入りは誰もしない。
興味がないというよりあの男の圧倒的勝ち組オーラが
追求を放棄させるのだろう
そのことを凄みと評価してもいいが、どこか
奴の瞳に映った色はむしろ自分にも似た......
そう、勝ち組とは程遠い存在に思えた。
むしろ俺の様な男に因縁を感じる矮小な男だと......
「山崎......」
「お、剛力......お疲れさん」
人込みの中でも極めて目立つ剛力と並び歩き、
ぞろぞろと体育館からゆっくりと教室に向かう中で
彼から少ないなりにも情報を提供して貰うのであった。




