三連体育祭編・44
その後の試合は俺は見物サイドとして素晴らしいものを見せてもらった。
ベスト4戦とは思えない、まさに圧倒といった感じで
剛力を主軸とする攻守が有希さんの指揮の元
的確に行われて四角はまるでないようだった。
今思えばあれを全部俺がこなしていたのだから、
無論分担できれば更に総合力が増すのは当然だ。
加えて軸担当の剛力は俺より鉄壁であると共に大砲。
有希さんの司令塔としての才能は俺がいた時よりも
発揮されていると感じた
きっと自分が抜けてしまって皆更に奮起して
団結力も上がっているのだろうと最初は感動と
ワクワク感もあったのだが......
冷静になってみるとそもそも俺がちょっと
でしゃばり過ぎていたのでは?
と思わざるを得なくなっていた。
バレーのこともあって、自分が引っ張っていかなければ!
と熱くなりすぎてしまっていたのだと改めて感じる。
一旦戦線から退いたからこそ、今はよく見えてくることが多くあった。
彼があんなに頼れること、彼女があんなにアグレッシブに動けたこと、
クラスメイト達の知られざる能力がしっかりと見える。
献身はしてきたつもりだ。
だが同時に傲りがあったのかもしれない。
バレーの時から既に自分がリーダーだと
あくまでも大将でもキャプテンでもない。
俺は所詮エースという名ばかりの働き者にされてるだけの男だ
そこを勘違いしてはいけなかったのに、
随分とカッコつけたものだと自嘲する。
それこそテープなんか回されていたら黒歴史確定......
と思ってみれば隣で暑苦しくもピッタリ自分にくっついて
観戦するエリーの横にさも当然の様に我が高校の体操服で擬態した、
リトルメイドが手に持つ物で絶望する。
無論、高性能小型カメラだ
録画も高画質で出来る優れものなんだろう。
令嬢様の従者が持ち込んだ物ならば、まず間違いない
私情で揺らいでいる内に我がチームは快勝。
この調子なら俺抜きで代表が決まるという更に心境が
複雑になる中、不穏な噂が聞こえてきた
「この調子だとあっちで勝ったチームが勝ちそうね!」
「あのエースの人かっこよかったもんねぇ~!」
俺の好きではない、どころか大大嫌いな黄色い声が聞こえた。
どうしてこうも他人の男に色めき立つ女子の声は、
モテない男の神経を逆撫でするのだろうか
などと勝手に一人で立腹している場合ではない。
重要な情報かもしれない。
もしやすると遂に謎の男のお出まし、という可能性もある
少しでもまだ勝利の余韻でチームが固まって残っているなら
と急いでもう一つのコートに行ったが、とっくに人混みが
できていてとても捜索など出来る状態ではなかった。
ここから体育館中央で三位決定戦が行われる
楽しむのが目的なら是非見逃したくない試合だが、
そんなことより次に当たる相手チームに奴がいたなら
それは目の前の仲間がやられていく光景をただ
見ていることしか出来ない状況に陥るかもしれない。
そんなことを考えるだけでも身震いする。
せめて、せめて姿さえ分かれば警戒を呼び掛けることくらいは......
強いエースというのが俺の宿敵なら、
きっと今でもチヤホヤされているはずだ。
そう思って如何にも次の試合がありながら浮かれていそうな、
そんな見るからにしてモテそうな奴や悪そうなやつを探したが
唯一掴んでいる手がかりが声だけでは、近くにいって
耳を澄ましても確固たる証拠のすり合わせとはいかなかった
三位決定戦が既に終盤に差し掛かる時に諦めて戻ってきた。
白熱といった試合展開だ。
両チームとも良い顔をしている。
必死でありながら全力で楽しんでいるのが分かる
自分もあんな無邪気に今回のイベントを楽しめたなら......
そんなことを考えて吐きそうになった溜め息を抑えて
頭を振った。
これも奴の狙いなのかもしれない
俺に少しでも楽しい想いをさせたくないと考えて、
今回の様なことを仕掛けていることは確かだ。
それで暗い顔をしていたんじゃ、黒幕の思う壺だ
加えて自分にはチームを鼓舞する役目が現在はある。
その存在がしけた面をしていたら、上がる士気も
むしろ下がってしまうというものだ
大きな歓声がワッと上がって、顔を向けると
一人という僅差で勝敗が決したことを知った。
悔しがる者に歓喜する者。
感動の熱は冷めやらぬといった感じであるが
着々と実行委員会の人々が次の準備を進め、
我がチームも集まってきている
そうだ、元気に仲間たちを決戦の地に送らねば。
まず己の気を引き締めるために顔をバチっと叩くと
自然に口角が上がって、明るい面持ちで
戦友達を迎えることが出来た。
「頼んだぞ、皆!! ここを勝って俺たちが代表になるぞ!!」
呼応する声は力強く体育館に響き、不安など杞憂だった
という展開すらも予想させたのであった
まだ、その時までは。
色々最後の夏、かもしれない




