三連体育祭編・42
「はあ、はあ......いてぇ」
「踏ん張れー! エース!!」
声援を背になんとこさ残り時間わずかになった。
敵将はまるで消耗していないが焦りを感じている。
息を切らす前に痺れを切らしてくるだろう
「どうするよ? 潰すっていう依頼の名目は確かに
この腕を見れば果たされていると思うが、このままじゃ
アンタのチームも共倒れするんだぞ......!」
「くっ......」
奴は迷っている。
これ以上俺を相手にしていては任務は完遂しても
場を任せてくれた味方には顔向けができないはずだ
「時間までには余裕を持って俺を倒し、うちのチームを
減らせる算段だったらしいが......とんだ計算違いだったな!」
これだけ煽り散らかせられれば、それはもう
自分の力に任せた怒りの一撃を放ってくるというもの。
これでもう沈んでくれ、という想いもあったろう
しかしそれは無情にも床を打った。
初めてミスらしいミスを誘えた。
ほんの後ろに避けるだけで当たっても意味のない跳弾が
胴体に跳ね返るだけだった。
......それですら結構痛かったが
ともかく思いの外の勢いに驚かされたがボールの取りこぼしはせず、
あとは外野にしっかりボールを渡した瞬間、
もう勝負は決まったも同然だった。
あとは取ることも当てることも至難な低い位置での投球を続かせ、
悪気の無いだらだらを仲間たちは見事に演出。
ルールギリギリの中での時間稼ぎは滞りなく行われ、
終了ブザー手前に最後の土産とばかりにお調子者が
仕留めに掛かった一球を投じた。
ただ、後に彼らは
いや、奴だけは一矢報いに来たのだ。
眼鏡女子に当たりそうな刹那、あの見慣れた逞しい腕が伸びて
見事に直撃を防いだ。
どころかその手に零さず、しっかり握っている。
すぐさま眼光がこちらを捉えた時、
凄まじい覇気を感じた。
たった一つの意志だけがその瞳に焔として宿っていた
負けてでも、一人は持っていく。
「!! 危ないッ!!」
咄嗟に来るであろうコースに身を投げ出した。
さながら大統領への銃弾をその身で防ぐSPが如く、無我夢中で
空中で我が身を盾とした。
ここまで出来たのは他でもない、心配しにすぐ隣に来てくれていた
有希さんが犠牲になりかねなかったからだ
大砲とも呼ぶべき一撃は見事に俺を打ち抜いた。
奴との勝負には負けた。
よりにもよって顔面だったためにまた気すら失うところであった
しかし二日続けて球に負ける愚か者がどこにいようか、
今回は意識がしっかりと現実に踏みとどまった。
おかげで着地の衝撃に呻き声を漏らしたが、試合には勝った
皆の心配して覗き込む顔がぼやける。
声が上手く聞き取れない。
まだ握っていた意識を手放しかけた時、
「ハル君! 寝ちゃダメ!」
「はい!!」
自分でもびっくりするくらい飛び起きた。
周りも突然の覚醒に呆然としたが、すぐに
俺を揉みくちゃにするのだった
「よく耐えたぞ!! 偉い!」
「さすがエース!」
男女関係なくごちゃ混ぜになりながら喜びを
仲間たちと爆発させていると、
「山崎......治雄」
いつの間にかすぐ近くに来ていた野太い敵将の声に皆がピタッと止まった。
その後すぐ仲間達がうなり声で威嚇でもしそうな空気だったので、
すぐさま仲裁に立ち上がる羽目になった
そのせいで酷い立ち眩みに襲われて
上体を再び床に打ち付けそうになったが、
それはあれだけ恐れた剛腕によって防がれた
「やはりか、大丈夫かね?」
「やはりって何だよ、へへ......まあ、ご推察通りフラフラだ」
「な、何しにきたんだ!」
カッカする仲間を手で制し、
見事戦い合ったライバルの次の言葉をうなずいて促した。
「この通り、山崎治雄はボロボロだ。
これはいくらルール通りに戦ったとはいえ、
某の責任であるともいえよう」
「そ、そーだ! どうしてくれんだ、コノヤロー!」
「それに腕だけであればアイシングでいくらか応急処置はできるが
見ての通り、鼻血とあっては次戦に出場は厳しいだろう。
出血は出場停止条件に該当するであろうから」
「「えっ!!」」
我がチームメイトどもはその褒めちぎっていたエースが鼻から
熱い涙を流していることに気付かなかったのだろうか。
自分も最初はやけに質量のある鼻水だと思ったが、
揉みくちゃにされている最中に嫌でも気付いた
「そこで提案なのだが、トレードシステムを利用して
某がエースの代わりに戦わせてはくれないだろうか」
「「えぇ!?」」
一斉に驚愕の声が再び上がったのであった




