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三連体育祭編・41

その言葉もまた今までの通り油断を誘う作戦なのか、

だとしても既に自分は引きずり出される状況を許してしまった。

もう退くことは出来ない


それに根拠もない直感だが、奴の言葉に偽りはないように思えた。

スポーツマンシップに則って戦うことも、影に潜む男の存在を裏付ける

貴重な証人であることも。


「ああ、全力でやろう。 気になることもあるけど、詳しい話は後だ」


「ゆくぞ......!」


本当はお手柔らかに頼みたかったし、少しでも対話で時間を稼ぎたかったが

既に戦闘態勢だ。

ならばこちらも本気の構えを見せねば、不作法というもの


「追い詰めたのは自分だと思ってるだろうが、一騎討ちを所望した手前

 この勝負をてめえから降りることは出来ないんだぜ?

 俺はタイムアップまで引き分けるだけで勝てるんだ、いいのか?」


「望むところだ......む?」


「さあ、気合入れて時間を稼がせて貰おうかな......!」


奴の投擲モーションが一瞬、固まったのも無理はない。

俺が取った構えはドッジボールでするものではないからだ。

だが、前日のことで馴染んだこの構えこそが今取れる最善の策である


「あれはどう見てもレシーブの防御態勢じゃないか!

 ここに来てエースはご乱心か?」


「ううん、それは違うよ」


後ろで有希さんの嬉しい援護解説が入っている。

だが、そいつに耳を傾ける時間はないようだ


「ふんッ!!」


力強い踏み出しから全力投球が襲い掛かる。

小細工なく真っすぐに飛んでくる砲弾を少し後ろに重心を傾け

上に吹っ飛ばす様にして受けた。

凄まじい痺れが走るが、ボールの軌道は素直に上空に向けられ

宙を舞ったボールは難なく俺の手に収まった


敵味方関係なく感嘆の声が漏れる。

うむ、気持ちがいい


「見ての通り、あの人の投球をいちいちまともに胴体で

 受け止めていたら体は持たないし、何より取りこぼす

 可能性が常に付きまとう。

 その中でハル君は編み出した、速度のある剛速球の

 勢いを如何に巧いこと逃がすかを」


「なるほど! これならいけるぞ!」


と、気分のいい説明を頂きながらも

そう事は簡単ではない。

端的に言えば、めちゃくちゃ痛いのである


まだ両腕がジンジンする。

弾くことが前提とされるバレーのボールと違い、

今回使用されているものにそんなものは想定して作られた

弾力性をしてはいなかった。

相手にぶつけるものとして最低限の硬度の調整はされているが、

奴の力も上乗せされてあと何発受けられるか怪しくなってきた


ただ、それでも

ここで腕をやられようとも耐え凌がなくては。

ルール上の時間いっぱいまで保持しては

外野の味方にボールを転がすように渡した。

少しでも時間を稼ぎ、尚且つ腕の負担のないように努めるしかない


味方も懸命にボールを十分に回して攻撃をするが、

結局当てに行った球は難なくキャッチされるので時間稼ぎにしかならない。

だが、もうそれでいい


これは俺の耐久テストみたいなものだ。

既にまともな戦いの様相を呈していない。

しかし、相手のチームは黙ってエースの勝利を信じている。

焦りは見えない。

信頼が成せる沈黙なのだろう


この静寂の持久戦を果たして乗り越え、

俺の腕は無事でいられるのだろうか......?


奴に鷲掴まれるボールの悲鳴のような音が先ほどより

不吉にも増して聞こえるのであった。

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