三連体育祭編・40
「もごォ、やべっ」
「ハル! 茶も飲んでゆけぇい!」
「ああ、ありがとってアチぃ!!」
よりによって熱々なお茶を差し出されて舌を火傷しながらも
早めの栄養補給をバッチリ済ませて、戦場へと向かった。
相手の目立った存在としては長身でやたら体格がいいのが居た。
運動部が集まるクラスを早い段階で引き当ててしまったか、と
他のメンバーを見たがむしろインテリチームに見える
そのゴリラみたいな奴が振り返るといっちょ前に
メガネはしていた。
だがよく見ると伊達メガネのようだ
「ははっ!見ろよ、エース! アイツ属性過多だろ!」
「あんまり調子乗って煽って、いの一番にやられんなよ?」
「......レンズじゃなくて最新機器のスカウターとか入れてねぇよな?」
「そんなわけ......」
あまりにチームメイトが急に怪訝そうにするので見ると、
なんだがこちらのメンバー一人一人にフォーカスして
観察し始めた気がする。
眼鏡に秘密は無くても、ただの見た目通りの脳筋ではないのかもしれない
結局試合がスタートすると共に警戒していた眼鏡を観客のクラスメイトに
雑に放り投げると、知性の欠片も感じない全力スローをお見舞いしてきた。
突然意味ありげなアイテムを放棄することの視線誘導を伴った不意打ちの一撃を
全力で遂行する小賢しい方法に一発で召されるところだった
何とか受け止めたが真正面に抱えて受けるので衝撃による
ダメージがデカい。
一瞬息が止まるだけの威力に、奴の盛り上がった腕が
見せ筋などでは断じてないことを痛感させられた。
こういうのと馬鹿真面目に戦っては体が持たない。
一つ考案した防御の秘術があるが早速使わざるを得ないらしい
と、意気込んだものの最初の一発から奴は守備役に回った。
いくらこっちの攻撃を受けようとびくともしない。
それどころか片手で楽々と止められた時はうちの攻撃隊長だけでなく
誰もが戦慄した
「オ、オレの最高の一撃を片腕だけで......!」
「皆落ち着け! アイツが攻撃に移る前にできるだけ
こっちの数的優位を保ち続けるんだ!」
要塞男の唯一の弱点らしい弱点は動きが鈍いことだった。
何か考えながら動いているのか、単純に体の重さからか
最小限の動きで盾役を買って出ているようだ
おかげで何発かは他の敵を捉えて、撃破数ではこちらの方が
若干上だ。
それに相手の攻撃は奴以外は十分に俺だけでも完封できるレベルだ
しかし、こちらの攻撃も一回戦のように連続して成功するわけではないので
差は一向に開かない。
加えていつ要塞男の大砲が飛んでくるか警戒していながらでは、
不用意に攻勢を掛けるのは逆転を許すことにも繋がる
一人の強力な用心棒を有した見た目通りのなかなか知略に富んだ
チームだと分かる。
なんて悠長に分析していると、
「そろそろか......」
奴がそう呟くと共にいつも通り味方に球を渡す動作から
またまた不意打ちの一投が唸りを上げる。
今度の標的は自分ではなかった
秘術の防御を構えることも出来ず、俺の守備範囲を離れていた
味方が餌食となった。
その着弾する音といったらそいつが間近でビンタでも食らったかの様な
破裂音だった。
あまりの威力に呆然として、バウンドさせなければアウトにならない
ルールも一瞬頭から吹き飛ぶ程の味方が吹っ飛ぶ光景に
誰もが動けなかった。
怪我はないようだがヨロヨロと自陣を抜けていく仲間を見て、
大げさに生唾を飲む音さえ聞こえた
「下がっていてくれ! 俺が食い止める!」
これ以上の犠牲は敗北を意味する。
このまま時間切れまで逃げ切るしかない。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると考えて攻撃も
防衛も一人でする他あるまい
そう決意を固めて一歩前に出ると、奴もまた一歩踏み出した。
合戦前の将軍同士の対峙を思わせた。
そして敵将軍は衝撃の一言を発した
「君のチームを、いや具体的に君を潰すよう依頼を受けている」
「なっ! それはつまり――」
「だが、そんなことは抜きに今は......いい勝負をしよう」
能面顔の強敵が初めて、笑った。




