三連体育祭編・33
「な、なんでお前たちが......」
「そんなの決まってんじゃない。
アタシらもゴリラ軍団に負けちゃったの」
「男も女もどっちも筋骨隆々だったからねぇ
ってかさぁ、ちょっと話色々聞いてよ美咲がね――」
「ストップ」
一歩前に出た陽キャ幼馴染を急にヤンデレ幼馴染が止めた。
「せめてアタシの前では治雄に近づいたらダメって言ったよね?」
「ご、ごめーん......えへへっ」
「おいおい、流石にミアは良いだろ? あんまし怖がらせんなよ」
男らしく二人の間に割って入る。
すると当然目の前の幼馴染は目の色が変わってビーストになる
「お、俺の女を怖がらせるなよ......ですって?」
「言ってねえよ」
「まだハルちゃんとはそういう仲じゃないよ、ねえ?」
「まだ、とか言うなバカ!」
面白がっているのか知らないが何故焚きつける様なことを
この期に及んで言うのか。
美咲の瞳は紅く光り出し、雄たけびでも上げて襲い掛かろうか
という瞬間
「出場選手は位置について下さい」
場内アナウンスに助けられた。
まあ、助けられたのは俺だけでミアは美咲に
キスでもされそうな近さで顔を近づけられながら陣地に戻っていった。
何を囁かれているのか、もしくは無言で圧をかけ続けられているのか
詳しくは後で両者ともなだめながら話を聞いてやるとしよう。
期せずして相手のエース級の間の絆はズタズタになった
考えてみると、これは復讐を果たす大チャンスだ。
普通に戦えばミアもいるあちらのチームが幾分か格上だろう。
しかし冷静さを欠いている獣がいる今ならば、
一番厄介な美咲を敗因にしてやることが出来る。
ネットを挟んで両陣営が顔を合わせた。
やはりあっちの大将もといエースは美咲だった。
まだ憤り収まらぬ様子で俺と対峙した
「そんなに睨むなよ」
「......」
もはや言葉はいらないのか、それともコケにされた怒りで
会話すらできぬ程に理性が吹き飛んでいるのか。
開戦間近で会場の熱気が上がる中、
しっかり聞こえるように言ってやった
「白目剥いてるときにたっぷりお前にかわいがって貰った分、
その恩は仇で返してやるよ」
「......!」
きっと既に俺は気を失っていて好き勝手してやったり、のつもり
だったのだろうがそうではないとしっかり伝えてやった。
さっきまでの憤怒と突然の動揺のせめぎ合いを
存分に味わって頂こう
敵のエースは乱した。
あとはこちらが一致団結するだけだ
「よーし......勝つぞ!!」
「「おおッ!!」」
ガッチリ円陣を組んだ俺たちの声は体育館に鳴り響いた。
排球での最後の戦いが始まった。
立ち上がりは順調そのものだった。
相手の軸である二人の連携がぎこちないことでミスが目立ち
点数は重なっていき、第1セットは難なく我らの手に入ろうか
という所で相手側のタイムの要求が通った。
悪い流れを断ち切りにかかったのは良い判断だ。
幾分か理性を取り戻してしまったようだ
「このままいけるなんて甘く考えるなよ、皆。
ここから敵の動きは変わるかもしれない、気を引き締めていくぞ!」
こちらのチームに油断も慢心もない。
あるのは勝利してせめてもこの世代3位の地位を確かにしたい気持ちだけ。
それともしもの時のプランW&Sも説明することが出来た。
万全を期して勝利を掴めそうな相手の場合のみ行使できる、
有希さんと編み出した作戦の一つだ
これで、例えあちらが元の勢いを取り戻そうともう遅い。
今の俺たちは止められやしない
珍しくそんな心持がフラグともならず、再開後
相手の動きは少しはマシになったがそれくらいで崩れる我々ではなかった。
強烈なアタックは少しでも俺に任せるように浸透した結果、
取りこぼす割合がグッと減ったことで連携攻撃はより強固となった
それぞれの役割がパズルの様にパッチリと嵌り始めた。
逆転を許すことも無く第一セットは25-20で先取。
あとワンセット、観客たちでさえ勝敗の傾きを確信していた
しかし、やはり美咲のチームは強かった。
きっと崖っぷちになったことで下らない意地を張っている
場合ではない、と思い直したのだろう。
ミアが拾い、美咲が打つ黄金コンビが第二セット目の立ち上がりから
猛威を振るい始めた
おかげで俺の負担が増えて前半までは何とか凌いで攻撃にも
繋ぐことができたが、じりじりとスタミナの消耗に伴って
相手の点数に直結する無慈悲な一撃が連続していく。
カバーをしようと仲間も奮闘するが、とてもあの修行を
受けた俺以外では話にもならなかった
気付けばスコアは17-21。
点差以上に自分たちの疲労から察するに第二セットを奪われるのは
必至と言えるだろう。
こうなっては致し方無い、事前に伝えておいたプランW&Sに切り替えることを
耳打ちで伝達した。
そうしてあれよあれよと18-25とあっさり第二セットは取られ、
会場の雰囲気も逆転ムードに沸く形となっていった。
あちらのチームも一安心どころか少し余裕が出てきた表情だ
だが、既に作戦は始まっていてその効力を発揮するのに
必要な条件は整っていた。
最終セット、ここからが本当の勝負だ




