三連体育祭編・32
「あ~、負けちゃったぁ......」
結局過去でも今でもバレーを通じて俺は圧倒的力の前に捻じ伏せられた。
こんなこと絶対自分の仁義に掛けて口には出さないが、もはや
俺一人で戦った方がまだ勝負になるくらい仲間は不要だった。
修行で力が付きすぎてしまった結果、コートは狭く感じて
故にチームメイトが動く障害物以外の何物でもなかった。
それでも運動部だらけの問答無用チームに対して
運動部の割合が低いチームメイトたちは、よく食らいついてくれたと思う
どうあれ、これでもう一つの組にやはり勝ち進んでいた美咲のチームと
戦うことすら出来ず、1年代表として先輩方とのドリームマッチの夢も潰えた。
1年生が勝った部門は未だ一つもないと聞く。
その初の記録を自分たちが作る気で挑んだが、まず第一の矢はポッキリ折れた
とはいえ、これも大きい声では言えないが実はこのバレーボールチームに
集めたスポーツに対しての戦闘力は我が三本の矢の中でも最弱......
第二、第三のドッジボールとサッカー部門で一年生初の悲願を達成するとしよう
「おーい、エース! 三位決定戦始まるぞー!」
「......えぇ!?」
完全に失念していた。
そういえば代表を決める頂上決戦の前にそんな前座の試合があったことを
傲慢にもテッペンしか目指していなかった自分にとってベスト4での
敗北したことの想定などしていなかった。
故に完全に終わった気で有希さんに労いの言葉を掛けて貰うか、あわよくば
よしよしでもされたいなんて妄想を始めようとしていたところだ
雑念を振り払って急いで最終戦の舞台へと向かう。
それこそ、代表決定戦はこの広いコートのど真ん中で行われ
注目を一つに集める、出場選手にとっては恐悦至極の時間であろう。
が、その前にベスト4に上がった栄誉あるチームは例え敗北しても
この三位決定戦で同校同世代全員の注目を浴びることになる。
前座試合などと考えてリラックスできると甘く見ていたが、
低く見積もっても総勢300名以上の観客に囲まれての一試合は
緊張とも武者震いとも感じられる震えが身体中を常に包んでいる。
一階からも二階からも見られている中心地に来て、
初めて事の重大さに気付かされた
ここを目指して自分たちは頑張ってきたのだと......
「1年代表決定戦と先輩達とのリーグ戦形式の頂上決戦......
こんなに多くの人に囲まれてやれたら気持ちよかっただろうなぁ」
仲間の一人が呟いた。
ガヤガヤと周りが騒がしい中でも不思議と通る声だった。
誰もが少し残念そうに下を俯いた
彼らは皆、ベスト4まで来れただけでも心では喜んでいたのだろう。
ただ、ここに来てせっかくならその先もこの舞台で戦いたかった。
そんな気持ちが滲み出るような表情を誰もがしていた
それを見て自分は一つの自信を確信できた。
そして一応チームを引っ張ってきたエースとして口火を切った
「皆! 顔を上げてくれ!
そして......周りを見てくれ」
今一度チームメイト達にここまで来れたということを再確認して貰う。
改めて生涯の中でもこんなに人に囲まれたこと、
注目されたことはない、という各々違った表情で明るさを取り戻し始めた
「満足していない、悔しいと思うなら俺たちはこの試合でもっと強く!
もっと逞しく! 最後のこの一戦に全身全霊をたたき込めるはずだ!
だったら......ここで派手に勝ってやろうじゃないか!!」
「「おおッー!!」」
戦友たちの士気を最高潮にすることが出来たようで何よりだ。
特にこんなくさいセリフでだだ滑りしたらどうしようと、
一瞬の皆の反応を待つ沈黙で滝のような冷や汗が噴出した。
試合前なのに既にぐっしょりの背中を見られたくなくて
一旦、皆から離れつつポケットを探っていると
「なーんだ、あんた達も負けちゃったんだ」
「てかハルちゃん発汗し過ぎでしょ」
聞き慣れた声にハッと振り返るとそこには
幼馴染二人がいたのだった。




