三連体育祭編・26
見たところ、特に異常なく順調に大会は進行しているようだ。
となると残念ながら、というのも不謹慎だが
俺だけが、もしくは俺らのクラスだけがマークされている可能性が大きい。
そもそも何が狙いなんだろうか。
俺が気に食わないのか、うちのクラスのエースである俺を潰したいのか
思えば事の発端はエリーが執拗な妨害を受けそうになったことから始まっている。
思い返したくもない嫌な囁きを受けたから視野が狭くなっていたが、
本当に酷い思いをするのは俺だけで済む話だろうか
それこそ今後の学校生活でもまさか......
そんなことを考えるだけで自分は心の底から震えてしまいそうだが、
首を振って弱気を一度振り払う。
飲み込まれるな、下を向くな。
自分がすべきことも見定めるべき標的も、
顔を上げた先にあるのだから
幾分か観察を通して気分も落ち着き、本番に向けて気持ちも
引き締まってはきているが、明らかに今朝と比べて集中度と
モチベーションには歴然の差があった。
このままでは全力を出せずに終わる......
そうなればクラスの足は引っ張るわ、
有希さんからの信頼も失われるわで全てが崩壊する。
かと言って奴の事を完全に頭から追い出せたとしても、
結局油断しているところをやられる
八方塞がり。
こんなにも暗い思いをするのは今までの人生ひっくるめても
そう簡単に思い浮かぶものがないレベルだ。
そう考えるとなんと穏やかな生活をしてきたことだろう
乗り越えた先の俺はずっと強くなっていて、
何でもないようなことが幸せであったことを痛感し、
明るく生きていくことができよう
せめて相手さえ特定できれば......
「おい、山崎」
話しかけてきたのは男子クラスメイトだった。
何も知らず朗らかな表情なものだ
「そろそろだぜ、行こう。
相手のチームにイイ女でもいるといいな」
「相変わらずだな......」
「体育の時間いつも女子の方をガン見してる奴が言えたことかよ」
「いつもじゃねえって!」
互いに茶化し合いながら戦いの舞台に足を運んでいく。
他愛のない会話のおかげで少し気分は回復できた。
とりあえずは目の前の一勝に集中せねば
我らが七組の初陣であるバレーボールの試合は、
初戦ながら苦戦を強いられていた。
自分が全集中できていないから、なんて言い訳が
通じないほどに相手の実力は高い。
むしろ個々の力を比較すれば明らかに負けている。
ありがちな連携の甘さに何度も救われているだけだ
「ちょっと、しっかりしてよね」
「はいはい......チッ」
明らかに相手のチームのムードは良くない。
ここまで酷い方が反対に珍しくて、あまりの空気の悪さに
こちらが閉口してしまって影響を受けてしまっている。
今こそ声を掛け合って励まし合って士気を保たなければ
「皆! 点数では勝ってるんだ! 声出し合ってこのままいくぞ!」
「「おおー!!」」
俺たちには突出した能力などないのだからチームワークで
どうにか押し切るしかない。
拾い役の練習ばかりしてきたがある程度攻撃に加わって、
連携が特に悪いところに打ち込むくらいの貢献はしよう
そうして展開的にも場の空気としてもヒリヒリした試合の中、
徐々に点数はマッチポイントに掛かろうとしていた。
時間の都合上、その年のチーム数によるが大抵初戦は一発勝負。
単純に25点を先に取った者勝ち。
故に最初から足並みが揃っていないと、経験者・実力者入りのチームだろうと
問答無用でスロースターターとして沈没していく
相手には二人長身の選手がいて、それ以外のメンバーも
運動神経は悪くない様に思える。
こんなにも団結力一つで変わるものか、と感心しながら
「頼むぜ!」
文句のつけようのないトスを貰う。
あとは全て自分の責任と功績が伴うのみ。
「うりゃアァ!!」
付き纏う見えない敵の苛立ちを乗せたアタックコースはラインギリギリで
相手のコートを打ち抜いてくれた。
「勝者! 七組!!」
感情的にして運頼みの一撃は美しさには欠けたが、
鬱憤と我がチームの実力への心配を払拭させる結果を呼び込んだ。
もう既に優勝したかのような興奮で円陣を組みながら大喜びした
結果は、25ー22での僅差を制す形での熱いスタートを切れた。
今回の戦果は接戦を経験できたことが大きかった。
これは今後の勝負根性でもプラスに働いてくれることだろう
敗者は去るのみ、
だが互いに励まし合う温かみのある背中というよりも
どこか誰が原因であったか、を探るかのような冷たさを感じたのは
頂点のための踏み台にした相手とはいえ、気持ちの良いものではなかった。
会場の熱気とは違ってその実、思ったよりも平和な祭典
とは言い切れないのかもしれない
脆く薄い、それこそあったかも分からない絆を否が応でも
確かめさせられてしまう。
それが今回の催しで渦巻く魔力により、明らかになっていってしまうのだろうか




