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三連体育祭編・25

二階に行って始まり出した試合を見ながら、どんどんと朗らかになっていく

場の空気に対して自分の表情は既に強張っていた。

上手く処世術でいじめやら絶対的な敵対を回避してきた臆病な生存者であった

自分だからこそ、今回の初めての事態はかなりの戸惑いを生んでいる


確かに今仲良くしている糸田兄弟とも最初こそ良好な出会いではなく、

どころか分かりやすい嫉妬やらの逆恨みから始まった関係だった。

此度もそれと同じようにもしかしたら分かり合えるかもしれない、

そんな楽観的な考えが浮かんでは消えていった


認めたくはないが、囁かれた声は俗的に言うならイケボ

という奴なのだろうが、動画で自主的に聞くものと

一方的に聞かされる、それも敵意が込められたメッセージとを

比べればこの世とは隔絶した気味悪さを際立たせていた。

現実味の無い相容れない存在からの攻撃的な声色は

相手側の思う壺だろうが、完全に自分から明るさを奪い去った


「......どうかした?」


「うわぁ!?」


急に静かな声で話しかけられ、いつもよりオーバーなリアクションをしてしまった。

それも周りの歓声の中では些事であったのが救いだ。

普段なら気付かないはずのない彼女の高貴な気配を感じ取れなかった


「あ、有希さん......ごめんなさい、ボーっとしてて」


「大丈夫? もしかして具合でも悪い?

 エースを任せてるからって無理はさせたくないから......」


「そういうのではないので大丈夫です!」


「緊張してるだけには見えなかったけど」


すぐ隣でこちらの顔を覗き込む彼女は美しい。

いつもならまともな状態ではいられないだろう


ただ、今は状況がまともではない。

そしてそれを悟られる訳にもいかない。

優しく聡明な彼女のことだ、解決に向かおうとまず俺を控えにして

余計な手間を取らせてしまう可能性が大いにある


有希さんにとってはただの楽しいイベントで、終わってみれば

あとの生徒会の優先権も手に入る理想的な展開を迎えてくれれば

それだけでいいのだ。

下手に巻き込んで彼女まで危険が及ぶかもしれないのなら、


「すいません、ホントは腹出して寝てて朝から便通が......」


「......ふ、あははっ! もう、しっかりしてよー

 本番までに落ち着きそう?」


「ええ、不安要素は直前までには出し切りますとも!

 全力を出し切って戦えるようにね」


「こんな大事な日の直前にどうしてそんな寝方しちゃったの~?」


俺は笑って道化を喜んで演じる。

目の前の彼女が今みたいに笑顔でいてくれるなら、幾らでも。

尚且つただのピエロで終わる気はない


危うくうちの女神を不安で曇らせかけたことを後悔させてやる。


嘘から出た実か、臆病者の腹は本当にキリキリし始めたが

怯えを怒りに変え、そして怒りを力に変えていかなくては

やられっぱなしの負け犬のままだ。


まずは恐怖を克服することからだ。

相手を知ること。

得体の知れない何かを相手にしている時こそ

恐怖というものは膨れ上がるもの。

ならば今は冷静に様子見に回らなければならない。

不安を行動で打ち消そうとがむしゃらに動いても

何の解決にもならない


じれったいが今はじっとこの位置から全体を俯瞰し、

見据えるべき外敵を補足することが先決だ。


「俺はこのままここで強そうなチームを分析してるんで、

 有希さんは皆のところに行きますか?」


「うーん、このまま私もここで――」


「皆のところに行くんだったら今一度鼓舞してあげて下さい。

 どーせ、あいつら浮かれてたり無駄に緊張してたりで士気が

 高いとはとても思えないんで」


「......うん! ちょっと、行ってくる!」


少し強引に彼女をクラスメイト達の方に向かうことを促してしまった。

心苦しいが仕方ない。

本音は彼女と少しでもいたいが、自分の周りにいるだけで

マークなどされそうで危険だ


有希さんの背中を見送って、会場に向き直ると

その場の誰よりもお祭りムードに似つかわしくない表情で

隈なく様子を見ることにした。

強豪チームの視察を忘れず、それと同時並行して天敵も探す


どちらもこなさなきゃいけないのが、エースの辛いところだ。

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