三連体育祭編・21
不穏な噂がある中なので特殊なルールの行使が現実味を帯びてきたこともあり、
有希さんと事前にやっと配られたトーナメント表を見ると
運よくサッカーとドッジボールで早い段階で知人と当たりそうだった。
何が都合がいいかというと、八百長をしやすい等のアクドイ理由ではなく
既に勝ち上がっているチームならば打破したチームのメンバーとの
トレードが可能になるのだ。
当然負けたチームメンバーとの交換なので出ていく選手は二度と戻れないが、
それほどの事態の場合そもそも復帰が難しいので問題はない。
そうした時に知り合いがいると交渉がしやすいし、
そもそも知り合いに出てもらうのが一番話が早い。
その知り合いとは自分の場合は美咲や麦野、糸田兄弟といったところ。
自分の狭い人望を考えると奇跡的に近い。
対して有希さんは流石なもので、ほとんどが知り合いと当たる形に
なっていた。ただ、運動が得意な子はさほど多くなく何だかんだ
俺の知り合いを頼る可能性の方が大きかった。
とはいえ、それは最悪な事態になったら
であってトレードが起こらないことが一番いいはずだ。
警戒すべきは接触競技となるサッカー、球をぶつけ合うドッジボール。
バレーは必死過ぎて周りが見えなくなって怪我する等がなければ、
まず相手にボールをぶつけられたくらいで大事にはならないはず。
ドッジボールもその認識で大丈夫だろう
サッカーに関しては人気スポーツなだけあって毎年採用率が高く、
どのような様相を呈するかは事前に情報を入手できている。
その結果、男女混合で行うサッカーの接触事故率は思ったよりも高くはない。
むしろ女子との接触を極度に男子側が気にするため試合内容は
見てる方としては激しさを欠く、生温い中身になっている。
確かに個人的にも生温いと感じるのは男の度胸の無さだ。
今自分が奇跡的にぼっちルートを回避できているからこそ、
そうした競技で紳士であったりシャイになれるのだろうが
エリーに関与しなかった世界線の自分はきっと女に飢え、
どさくさに紛れて女子を執拗にマークしていたことだろう
「......ハル君?すっごく顔が怖いんだけど具合悪い?」
「あ、いえいえ! なんでも!」
危うく奥底のケダモノを感知されるところだったが、誤魔化して話を進める。
とりあえずもしもの場合でも我らがチームが問題なく勝ち進むための作戦と
備えを全てが開始する前に済ますことが出来た。
後は皆が各々の競技で全力を尽くせればきっと良い結果になるだろう
「皆を引っ張っていけるように......俺、頑張ります!
皆から、何より有希さんに任されたエースだから!」
「うん! 期待してるよ」
夕日差す教室で二人。
期待も込められた彼女の瞳に反射するオレンジ色の光はあまりにも美しい。
これ以上の青春と至福があるか、という空気の中
「終わったか!?終わった!?」
放課後の有希さんとのスイートな時間はいつもこの小さな怪獣に壊される。
柔らかな笑みを浮かべる彼女に見送られ、引きずられる様にして
怪獣コーチに訓練へと連行される日々が続いた。
時に知的に作戦を立て、時に何も考えず走り込み、
放課後に有希さん&エリーと過ごす時間が長くなると
どこかで爆弾が爆発したような感じがした。
ずっとほったらかしにしていた奴によって、
俺の修行は更に激しさを増していくのであった......




