三連体育祭編・14
スタートはまずまず。
言われた通りしっかりと最内の先頭についていたために障害なく、
先頭を走り出せているエリー。
それに続くのが、
「む?あ、あの女本気で私にくっついて走るつもりか......?」
治雄の作戦を携えて参戦している千夏であった。
異様な気配に気づいて振り返った先が異様な笑顔であった。
その表情は激走の中にありながらも愛おしいエリーを
追えて幸せそうだ。
「ひえ~......」
若干ペースが乱れつつ、いつもより早く先頭を走っていく。
そんな先の光景に焦りを感じているのはベテラン集団の運動部たちでなく
「アイツアタシらで囲うの無理じゃね......?」
思わず嘆く、悪い長身女子とその取り巻きであった。
「で、でもあんな馬鹿逃げしてたらいつかバてるっしょ!」
「そ、それもそうね」
そして経つこと数分、
悪女たちの予想とは裏腹に戦況は実に落ち着いていた。
前を走る二人を好位置で見守る運動部集団の後を比較的やる気と
体力のある者が中団で追っている展開。
もうすぐ折り返しに迫ろうかというところで業を煮やしているのも
また、中団中腹に位置する悪女チームである
「こ、このままじゃやばいって......!
せめてあのお方の役に立たなきゃいけないのにぃ~」
「アタイは元からあの男のために戦ってるわけじゃ、ゲホッ!
は、話すのもだるい......ごほっ」
固まって声を出し合い励まし合うように進んできた団結力と
小さなお嬢様の鼻を明かしてやろうという意思が弱まりつつあった。
そんな取り巻きたちの弱まる士気を高めるため、
リーダーはその長身に恥じぬ大きな背中とこれからの態度で示すことを
玉砕覚悟で決意した。
「ついてきな......!」
聞こえるかそうでないかの声は自身へのギアを上げる一言であった。
体力を減らそうとも先団を超えるために大きく外へとずれていき、
勢いそのままにコーナーで無理やり外からごぼう抜き。
仕掛け処にはあまりにも早すぎるそのタイミングは、
明らかに素人の失敗であると一時抜き去られるベテラン達は思った
しかし、長身悪女にとって今取る行動は暴走でも何でもなかった。
明確な敵と認識する相手との心中を図る、理性で選んだ片道切符だ
「うりゃああ!!」
はるか先を行くエリーの耳にもその闘志は届いていた。
何かが近づいてくる。
振り向きたい気持ちはある。
ただ、それ以上に今はべったり背後をマークしてくる女の
幸福に満ちた身の毛のよだつ相貌を目に入れたくなかった
それに親愛なるコーチである治雄からはふざけた異分子が無理やり隣に着けて
来ようものなら絶対に無視しろ、との指示を預かっている。
故に序盤こそ乱したはずのペースは既に修正された安定軌道から淀みなく、
その悪玉異分子を三番手につけたまま進んでいく
特攻覚悟のリーダーに必死に追いつこうとするも取り巻きズは
息も絶え絶えに運動部集団の前にケツを押し付けるように、
前めを走るのでやっとの状況。
少しいびつな縦長な形でレースはようやく
70%を終えようかというところまで来ている。
ここでの仕掛けが誰かによって戦況が大きく変わるこの瞬間、
エリーは指示通りやっと背後を確認した。
そこに予想されていた通りの人間が追い上げていたことで
彼女は不敵な笑みを浮かべずにはいられなかった
「我が未来の旦那は、恐るべきも予言者か」




