三連体育祭編・13
もう一つの決戦の地にて、
ピストルの音を聞いてエリーは笑みもまた浮かべていた。
「ついにあちらは始まったか......」
スタート地点先頭で堂々の立ち振る舞いと男子の部を気にする余裕、
新調したマラソンシューズは勝利を祈願する赤をベースにした、
周りの者の目を引く姿であった。
そうして目立つと中にはそれを気に入らない者もいる
「やる気入ってんじゃんお嬢様ぁ」
「ん?」
寄ってきたのは柄の悪い長身の女と取り巻きといった感じの女子組である。
「なんだ貴様らは」
「アタシらは13組のもんさ、今回の三連祭でうちのクラスが
生徒会出走シードを頂く!
そんでアタシがこの学校を更に生きやすくしてやるってわけ」
取り巻き共は深く何度も頷いて自信のある様子。
それに対してエリーは滑稽に思えたのか少し笑って見せた。
すかさず取り巻きA子は問いただす
「なにがおかしいわけ?」
「ああ、いやすまない。
まあ......お互い頑張ろうじゃないか」
色々カッコいい煽り文句を考えたが結局出なかったので
余裕の現れとして握手を求めた。
その手は快音と共に払いのけられた
「どうやらおチビちゃんには分からせが必要みたいね......」
「ほう?」
外国人ばりにキスしそうなくらいの距離でメンチを切られて
流石にお嬢様の膝が笑い始めてきたところで、
「ちょっと、そのくらいにしといたら?」
正義感の強い運動部女子が助けに入ってくれた。
背後にも似た非難の目を向ける者の存在が多くいることに気付くと、
長身の女は舌打ちと共に後ろに下がっていった
「す、助太刀感謝するぞ」
「ああ、気にしないで
でもマラソンの本番では味方するつもりないから宜しくね」
そう言って仲間たちの元へ正義の味方は消えていった。
後ろ姿を変態の様に嘗め回すような視線で観察した結果、
エリーは事前に貰っていた情報の存在の一人だと分かった。
特に、一番の要注意人物であるということを
「篠崎瞬華......身長164センチ、陸上部の長距離部門エース格。
バスト78、ウエスト55、ヒップ82で今も成長中......
太りやすく柔軟性がやや低い身体に困りつつも奮闘中......
最近の趣味はチートデイにスイーツ巡り、データ通りだ」
やけにデカい独り言に近くにいた誰もがその情報の必要性に首を捻ったが、
有用なタイム情報などを口に出さなかったのはわざとかきまぐれか......
不穏な存在からライバル筆頭にまで会いつつ、
エリーのメンタルは落ち着いてるどころか興奮に溢れている。
開始が近づくに連れてピョンピョンと飛び跳ねて子供の様だ
「出走生徒、全員態勢整いました。
そろそろスタートとなります」
「くぅ~......やっとか!」
「楽しみだね!エリーちゃん!」
「うむ!
......って誰ぇ?」
振り向くとそこには千夏がいた。
いつもならエリーの背後を取ると羽交い締めレベルで抱き着くのだが、
今日は自重できている
「うわぁ!なんの用だ!」
「一緒に走るつもりだよ?」
「私についてこれるとは思えんが?」
「えへへ~、そうかもね」
いつものニヤケ顔とはまた違った不気味さを含んだ笑みに寒気が
走りながらもエリーは前に向き直った。
男子と違ってしっかり横一線に並ぶ女子の部最前線の外の端には
ライバル篠崎が強気の布陣をしていた。
そして、後方では
「いい?アタシらで囲んでやるとしましょ......アイツをね」
取り巻きたちはニヤニヤと悪いリーダーの指示に従い、
虎視眈々と作戦を企ててそれぞれ配置についた。
そんなこと露知らず、すぐ後ろと目の端の脅威を確認しつつも
エリーは元気にやる気を入れ直した。
「いける!!」
その掛け声の直後、競技用ピストルが済んだ空気に響き
戦いは始まった




