三連体育祭編・11
思案に耽っていると意外な声が聞こえてきた。
「そんな難しい顔して具合でも悪いの?」
クラス順に歩いているはずなのに気付けば美咲が隣にいた。
「おいおい、なんでここにいんだよ」
「もう、ちゃんと列を守って歩きましょうなんて歳でもないでしょ?
周り見てみなさいよ」
言われてみれば味方であるはずのクラスメイトは近くにちらほらとしかおらず、
代わりに違うクラスの生徒が入り混り談笑しながら進んでいた。
昔の規律ある隊列に見られたら笑われるだけでは済まないだろう
「美咲は悪い子ってことだな」
「もしアタシが悪い子になったら、治雄は叱ってくれますか?」
「もうなってるし......多分、他の誰よりも何倍も放っておくと思う」
「ふーん、そんな冷たい態度取っちゃうんだ」
と、言うと不意に手を握られた。
最初は技でも決められるのかとギョッとしたが、手を握っているだけ
「あのォ......そろそろ離して欲しいんですが」
「あんたのその冷たい態度かアタシの冷えた手がマシになったら考えてあげる」
「だ、誰かに見られたらどうするんだよ!」
「小声で必死ね、ダーリン?」
また何の漫画かアニメに影響されたのかやけに積極的だ。
今の声も誰かに聞かれたらすぐ指を指されることだろう。
このままではまずい、少しでも好機を作り出さなくては
「つ、冷たい態度と言ったらお前のSNS上の態度もだろ」
「え?」
「惚けるつもりか? 俺のこと何度も既読無視しやがって」
「そ、それは......寝落ちするまで返信を考えてたりとか」
途端にゴニョニョし始めて最後の方は聞こえなかったが、
これはどうやら効いてるようだ。
「あーあ、ミアとの方がトークは盛り上がるんだけどなー」
「な、なんですって!」
「さ、最近は結構アイツと仲良く話すんだよねー
くぅ~、今スマホ持ってたらトーク履歴見せられるんだけど
今日は持ってくるの忘れちゃったからなー」
「だったら......!!」
すっ飛んで麦野の方に恐らく走っていった。
それも俺にダイナミック初キスをかましに来た時と同じくらいの
勢いで、生徒を蹴散らしながら逆走していったのであった
許せ麦野、こうでもしなきゃ奴は離れてくれなかった......
しばらくの間後ろから聞こえる騒ぎに耳を塞ぎつつ、
早足で会場に着くと、言いつけ通りストレッチをしているエリーが見えた。
まだ時間もあるのに防寒具を取っ払って既に臨戦態勢だ
「気合が入っているのはいいけど、身体を冷やさないようにな」
「お、ハルぅ!
ふっふっふ......私の闘志は今やブリザードですら冷ますことはできん!
大船に乗ったつもりで任せるがよい!」
そう言うと過剰なスピードでウォーミングアップに駆けていった。
スタミナも体温も温存するつもりはないのは心配だが
遠くなっていく走り姿を見る限り調子は実に良さそうだ。
あとは本人にも話してない援護作戦も決まってくれれば......いける
「じゃあ......今日は指示通り頑張るね、おにい~ちゃん」
「呼びつけておいて悪いけど......その呼び方は辞めてってば」
「ハル兄ならいいでしょ?」
「......それでいいよ」
夏祭り以来妹属性もくっつけてきた彼女こそが、
今来てくれた吉沢さんこそが、作戦のカギとなるのだ。
互いに秘策の最終確認も終え、刻々と決戦の時が近づく中
自分の鼓動は緊張から期待に胸を躍らせ始めていた




