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三連体育祭編・9

その後の特訓は熾烈を極めた。

まず暗くなったら切り上げるなんてホワイトの制度が撤廃された。

代わりに来たるはブラックな夜の帳が落ちても行われる走り込み。

花山家の従者を伴いがら俺は自転車で並走して彼女を励まし、

時に追い込み続けた


雨の日も、風の日も、あくる日も階段道を駆け上がっては

転がり落ちそうになりながらも坂道も駆け下りた。

季節外れの砂浜でも汗を流し、火照った身体をせっかくだからと海で冷やす。

体験入部で培った泳力を存分に身に染みる冷たさを振り払うように奮った。

運動エネルギーで熱を生まねば肺が凍り付きそうになるのだから、

それはもう全力で泳いだ。


学校でもできうる限りの特訓のレベルは上げて打ち込んだ。

体験入部とは思えない程に、バレーボール・拳法・サッカーに明け暮れ

総合的な運動能力を上げ続けた。

節操なくやっているようだが、これは後にも繋がることなのだ


戦いはマラソンだけでは終わらない。

しかし目の前のことからまず全力で達成していく


そのためほとんどの修行が放課後の学校外で行われた。


「ハル! ほら、ゆくぞ!!」


「お、おう! 今行く!」


男子小学生のように一日の授業が終われば急いで片付けをして走って帰り、

すぐさま集合しては行動を共にした。

小学生との大きな違いは遊びに行くわけではないことだ


次の日も次の日も飽きやすいご令嬢のためにメニューを考えるのは、

献立を常に考える母の苦労を知るかの様であるが

自分の場合はほんの少し楽しかったりもした。

大半のレッスンを保護者である俺が同伴してやることはもはや当然となり、

随分とエリーと共にたくましくなったものだともふと思うことがある


「ん~......ふんっ」


「何やってんの、兄......」


肉体的にも絞れてきて鏡の前でマッスルポーズを取っているところを

家族に見られるのも日常茶飯事だ。

よりによって妹によく見られるのが少し恥ずかしいところだが......


「お前ら今日はどこいくんだよ?」


「私たちの中での、ひ・み・つ! ね、ハル?」


「ああ、今日は一番近いフィールドアスレチックでタイムアタックだ」


「そうやって話すから野次馬が来るのだろうが!」


俺たちの騒々しさは学校終わりの定番となり、

クラスメイトに聞かれることもあれば

たまに一緒にやりたいという者も出てくるようになった。

最初こそ三連祭に乗り気でなかった者が多かったが、自然と自分たちが

いいムードを作れたように思える



そして今現在では、クラスの半分がグラウンドで自主練に

付き合ってくれるようになった。

大人数を相手する良い練習になる。


部活をしていない者は皆参加してくれている状態だ。

部活をしている者も暇があればフラッと来てくれるし、

ちなみに吉沢さんは常連が過ぎて本職が心配である


ちょっとした同調圧力になっていやしないかとも不安に思ったが、

イイ運動になると意見は肯定的だ。

今までもクラスとしてそこそこ仲が良かったのが、

確固たる団結に変わり始めたのを肌で感じている。


「風・・・なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。

 今までにない何か熱い一体感......!」


「感動中のところ悪いが、もうゴールしたぞ」


「あ、ああ、ハイ」


「全く......困った人♡」


色気を出されても滑稽なところだが、身体的に運動のおかげで

僅かに成長しているように見える。

ストップウォッチに現れる成長はめざましいものある。

既にこの前の麦野戦とのタイムは大幅に更新して、単純にその時とのを比較すれば

もう負けることはないだろうという所まで来ている。


しかし、相手も成長しているし何より懸念すべきは本番まで情報を掴めない

強豪やダークホースの存在だ。

ただ、こちらも何も対策をしなかったわけではなく

それこそ権力は大いに使って従者たちが一晩でデータは集めてきてくれた


有名どころとなる強者たちの長距離走のタイムは割り出せている。

そこを超えるという最終目標に手が届きつつあった。


「いけるぞ、エリー」


「うむ......しかしまあ、私たちの秘密のレッスンにお邪魔虫が

 増えたものだな、本当に」


「イイことじゃないか、皆のタイムも上がれば個人成績だけじゃなくて

 組としての総合成績もちゃんと評価されるんだからさ」


「本番で足を引っ張らないか不安だな」


そう言って同志たちの努力を見つめる彼女は満更でもなさそうであった。

どこか顔つきも少し、ほーんの少し子供っぽさが抜けてきた気がした


「身も心もちょっぴり成長したな」


「むふー」


「じゃあ、一人で大丈夫だな! さあ、吉沢さんと有希さんのとこいこー!

 らんらん♪」


「なんだその足取り軽いステップは! う、浮気だー!!」


素直に褒めると未だに成長中ながら

特に育たない胸を張っていつも調子づかせてしまう。

だからこそ、意地悪が辞められないのだ。

別に、好きな子をイジメたくなる心理なんかじゃないんだからね


そう、自分に言い聞かせるのだった。

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