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三連体育祭編・7

驀進お嬢様に手加減はできない。

傍から見れば暴走にも近い飛ばし方が平常運転なのだ


それに対して麦野は追走というにはあまりにもスローペースだ。

基本的に吉沢さんとの模擬戦の時も、今後の対大人数を想定しても

先頭を走るエリーに合わせてハイペースで付いてくる相手に最後に並ばれても

ゴール手前で抜き返すという作戦をうちは基本としている


作戦というのもおこがましいところだが、彼女がそういう走りしかできないので

それしかない。

そんなでも今までタイムは更新し続けて、段々様になってきていた。


ただ、今回は初めての後ろから追い上げてくるタイプとの対戦。

故にペースメーカーとすることが出来ない。

今の速度は適度に速く、スタミナ面を考えて適度に遅いか、

そういったのがまるで分からない。

本番ではまるで周りに人がいないことはまずあり得ないことだが、

もしも自分のペースが分からなくなる様な事態にどのようにして

対応するかの良い機会になるだろうと前向きに捉えるしかない。


しきりにエリーは後ろを気にしている。

アレは良くない。

過度に背後を意識することなど素人でも御法度だと分かる。

見えない相手に意識を向けていられるほど長距離走は余裕のあるものではない。

多くの者と戦っている様でその実、己しか知り得ない体力・足の状態を

常に分析し続ける孤独な闘いとも言えることだろう


それにこれはただの学生の一つのイベント事。

傍から見ればそこまで真剣にやることではないようなイベントだからこそ、

目指すべきタイムや数多いるライバル達の情報等皆無。

ウケ狙いの馬鹿逃げを行う者や他にどんな奇想天外な展開になるかは

それこそ、正式な競技よりも対策は困難を極める


なればこそ今一対一という状況で心・思考共に乱されるような

精神面ではまだまだ甘い。


そうした未熟は後で対処とするとして、段々と中盤に入り

心配を向ける先は自分の教え子ではなくライバルの方へと移ろっていく。

あまりに、遅い。

そろそろじわじわと加速して先頭に寄っていかなくては、

いくら足に自信があっても届く間もない。

今の互いの距離からしてまさにグラウンド半周ほどの差。


特に強気な挑発などは無かったが、それでも余裕を見せつけんばかりの

リードを許しての敗北は慰めの準備でも必要かと考えてしまう。

侮っていたとは思わない、冷静な分析な結果終盤に差し掛かるというところで

勝負は決したかと思われたがその時に既に麦野は的確に動き始めていた


「あれ......?」


思わず零れた疑問はエリーとて同じことだろう。

いつもの通りの最後の一周に入ったところで仕掛けに入った。

このタイミングで並ぼうとするライバルを更に追い込む駄目押しの

加速が今入ったかのよう見えた。

しかし、思った以上に速度が増したように見えないし本人の表情も見るに

いつもラストスパートの勢いと共にある笑みはまるで無い


仕掛け所が少し早かったか、予想以上にペースが乱れていたか、

それを確認しようとストップウォッチに目を向け、顔を上げた時

衝撃の景色が飛び込んできた。


「エリー! 後ろから来てるぞ!!」


「なっ、そんな馬鹿な――」


彼女の視界にはさぞかし恐ろしく映ったことだろう。

それこそとてつもない重量を誇る神輿がかなりの速度で駆ける、あの迫力。

あれを支え走った脚力を物語るようなスピードが逃げる彼女に追い付き、

まさに追い抜かんとしていた


既に射程圏内、という表現もぬるい。

もはや加速する麦野から縄を手繰り寄せられるかのようにエリーは失速し、

並ぶことすら許されずあっさりと入れ替わった後も尚、速度は緩むことなく

目の前を力強く駆け抜けた。


秋に染まる大人しい冷気を再加熱するような夏の息吹すら感じたのであった

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