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三連体育祭編・6

彼女のひたむきな成長に対して不誠実でいるわけにもいかないと、

今夜こそとしっかり明日に予定を取り付けて疲労もあるので即就寝したかったが

またもやトークはゴム毬の如く弾む。

原因は自分にもあるが麦野の返信の早さにもある


なにせものの数秒で既読がつく。

こういう人間に対して自分は経験もなければ返さないと可哀相かな、と

こちらも即座に返してしまう。

これのせいでいつまで経っても切れ目が無いし、加えてお互いに

乗り気で話すものだからもう、ノンストップ!

朝まで~コースが構築されるのだ


自分が夜更かしできない人間なので寝落ちでやっと片が付くが、

朝目覚めて続きを見ると即返信したくなる。

中毒性が高い高速トークの性質を知り、一つ思ったのが

美咲はこれを防止するために敢えて既読無視を繰り返していたのではとも思う。

それによって直接会う時の話題の保持、または直接会いたくなるように

仕向けているのかもしれない、と。

しかしミアと比べてしまうと、もし駆け引きとするなら粗さが目立つ


まずベッタリしてくる時もある存在にある時は急に冷めた態度を取られれば、

それまでの好意は真のもの成りやと疑わしくなってしまう。

対して麦野は直接ではむしろ不愛想どころか敵対的で印象は良くない。

しかし途端にSNS上ではオタクに優しいギャルに変貌するのだから、

これがまさにギャップの破壊力と言えようか。

ちなむと俺はオタクではないのだが、イイ例えがそんなところだ。

そう、全くオタクなんかじゃないんだからね!



そしてその日は少し麦野と会うのをちょっぴり心待ちにしている自分がいた。

多分こちらのフィルターからは数段可愛く見えてしまうことだろう。

なんと自分は単純なのだと呆れるし、


「よ、ハールちゃん」


「え、こんなへんちくりんが相手なのか?

 大差で勝つだろうし、なんか先に謝っとくわ」


「相変わらず可愛くない可愛いおチビちゃんなのね......」


エリーと話す麦野をぽけーっと見ている自分を認識したのは

鼻の下を伸ばしているのをエリーに悟られてど突かれてからだ。

我を完全に失っていてまず、いの一番に行わなければならない確認も

大事な模擬試合をするこの段階で怠っていていたのだった


「み、ミアって走れる女だったのか?」


「何そのぎこちない呼び方? ウケるんだけど~」


いじられてとっても恥ずかしい気分になって顔が熱くなる。

続いてエリーが見たことのない今のクソ雑魚加減に

怪訝な表情を向けてくるので余計だ。

有希さんに対してはだらしない顔だが、今の自分はウブ男子丸出しだ。

決っっして女慣れしてないオタクがギャルにいじられている訳ではない!


「ハルちゃんは知らなかったっけ? これでも小学生の時は持久走でトップ!

 中学生の時は学校違うから知らなくて当然だけど、陸上部で長距離専門ってね」


「......なるほど、言われてみれば」


「ハルよ、何が言われてみればなのだ?」


太ももの様子をプロフェッショナルに見る自分を見る令嬢様の目は

実に冷ややかなものであった。

気を取り直して咳払いで一応ヨイショを敢行する


「まあ、それでも今は部活なんてやってないんだろ?

 そこはコイツも同じだが俺の特別メニューでかなり仕上がってきた......

 簡単に勝てるとは思わんことだな」


「そう、今私の旦那が語った通りだ」


「だーれが旦那だよ!」


小突かれても自慢げな顔は揺らぐことはない。

そんな夫婦漫才風を前に麦野の朗らかな顔は、念入りな準備運動をしつつ

確かに勝負をする目つきに変わっていった。


小学生の時から彼女にそんな才覚があっただろうか......?

実際に走るのを見るまで疑惑はあった。

しかし、勝負がスタートするまでの風格で疑いは薄れ

記憶にあった生意気な二人目の幼馴染はただ可憐に成長しただけではないことを

すぐに思い知る


「では......位置について、スタートッ!」


俺の掛け声で二人は力強く走り出した、かに見えたが

それはエリーだけ。

先を譲るかのように麦野の始まりはゆったりとしたものであった

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