三連体育祭編・3
「もう無理! ちかれた!!
エリちゃんアラートを発令します! ぼへぇ~」
「可愛くないのでもう一周!」
「どうしてだよおお!!」
猫なで声から悲痛な叫びへのシフトも、
おふざけモードから懸命モードへの切り替えもお嬢様はお早いのだ。
文句は垂れながらも彼女はよくやっている
さて、既に当の本人には説明したが今一度
ご令嬢を利用するクズ男という非常に歪んだレッテルを張られる前に
状況を整理しなくてはならない。
まずマラソン首位の座を男子の部でうちのクラスが取るのは困難を極める。
何を隠そう我が高校はマンモス校であるが故に、相対するライバルの数が
尋常ではない。その数、うちの学年は実に17クラス......!
比例して有力候補である駅伝部の人間が散らばっている訳だが、当然
平等に分けられているはずもなく、何なら偏っているのが3組だ。
1~3組はスポーツ特進コースのために、まずコイツらをどうにかせねば
トップ候補に入ることもできない。
シードの件は演説下手なこやつ等への救済策なのでは、とも思えてくる。
しかし、付け入る隙はある。
それはまさに女子の部である。
マラソンに似た部活動は女子部門では存在せず、
駅伝部は硬派にも女子禁制となっている。
所属する男子部員はそこを悔しがる者もいるが、時代遅れの
顧問はまるで聞き入れてくれないそうだ
ともなれば我が7組が誇る吉沢さんがいるからエリーを
今から首位争いに組み込もうと言うのは酷だという意見もあろう。
ただ、現状7組一番のスタミナと噂されるのがまさしくエリーであった。
体力テストでのシャトルランはもちろんのこと、このマラソンの前に必ずある
夏季休暇という長期休みの後の叩きのレースとして長距離走が組まれるのだが、
エリーは馬鹿逃げもとい大逃げを決め込んで一位目前まで迫っていたのだ。
無論その反動が無い訳が無く、
マラソン練習などでは酷い体たらくであるが
夏場の島でのジャングル遊び、海・砂場での戯れが自然とニートで
燻っていた彼女の身体に宿る潜在能力の蓋を開けていた。
せっかく花開いた力を無駄にしないためにも
周りが倍速にでもなったかのような終盤の失速を
生まぬように今から少しでもスタミナ・走力を上げていくのだ。
無謀な訓練などではない。
これは我がクラスを栄光へと導く一番の近道なのだ。
怠惰になりがちな奴に丁度いい理由もある、絶好の鍛え時に鍛えずして
いつ彼女を成長させられるというのだろう
健全な肉体には健全な魂が宿るという。
ならば、甘え切った性根も今回でいくらか変えられるだろう。
ならば望みの薄い俺なんかが修行するより、希望と栄誉を
エリーに譲ったのだ。
決して俺が楽をしながらも勝利に貢献して有希さんからの
株を上げようなどとは考えていない!
ああ、俺が本当は直接彼女に勝利を捧げたかった......悔しいが。
天から受けた才を持つ奴がいるなら、そいつを支える方が俺には合ってる。
故に、
「ほらー、ペース落ちとるぞー」
「む、無理ぃ~」
この修行はなんら不純でもなければ、おかしくもないのだ。
これでいいのだ。




