表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/274

三連体育祭編・2

「そもそもマラソンなんて盛り上がりに欠けるのに~?

 流行り過ぎたのが悪ぃんだよ!」


「その盛り下がりに負けないくらい、

 兄貴の持久力のステータスは凹んでるからね」


「うるせえやい! 自分は得意だからってよぉ」


喧しい中、いつもの帰り道。

兄弟の騒げるだけの体力を羨ましく思いつつ、

上の空で見つめる雲がウロコのように規則正しく並ぶ様を

秋の訪れと風流に感じている。


「おいおい、ヤマオさんよぉ~

 まるで還暦を過ぎて楽しみのない爺さんみてえな面だぜ?」


「ギャンブルでも始めますよ......」


「老い先短いかも分からないまま貴重な年金を賭けるのはクールだな」


「冷や汗でクールになるのは親族なんだから兄貴には絶対させないからね?」


こんなにもよく出来た一慶という弟を持つ先輩は幸せ者だろう。

我が弟と妹はこんな風に引き止めたり助言等してくれるだろうか、

それは有り得ない。

むしろ、嬉々として俺の不幸を喜ぶだろう。

いつまであんな未だ幼い悪戯心を持ったままなのだろうか、

先のことを考えると直近の惨煉祭も思い出して溜め息が漏れる


「そういやクールで思い出したが今年の三連祭は熱くなりそうだな」


「思考があべこべ......」


「......なんで熱くなるんです?暑苦しくはありますけど」


「お前角田さんからなんか聞いてねえのか?」


有希さんの苗字にピコンとレーダーの如く

無いはずのアホ毛が天を突きそうになる。


「なんであなたの様な男から有希さんの話題が出るんですか」


「ひでえ言い様だなぁ......まあ、いいとして

 今年は三つのイベント通しで優秀なクラスを束ねている委員長は、

 なんでも生徒会出走権のシード?とかゆーのを貰えるらしいぜ。

 ともなれば、あの生真面目な角田さんが張り切らねえ訳がねえよ!」


「兄貴の話は信用ならないからなぁ......」


「くだらねえ与太話じゃねえぞ! ちゃんとした筋の噂だ!」


結局噂の域も出てもいなければ、まともな交友関係をしてるか

怪しい淳先輩を心から信じることはこの時はまだ無かった。

それでもやはり戯言で片付けられない心情と真実であったなら、

有希さんの願いとあらば火の中水の中を(勝手に)誓った自分は無関係・無気力で

今回のイベントを受け流すことが出来なくなることが、この時既に

確信めいた予感として胸を圧迫していた。




そして翌日、


「......というわけだから、少し自分都合も入ってごめんなさい!

 皆にはできる限りでいいから、少しだけ頑張って欲しいの!」


淳先輩が効いた噂は現実であったことを事細かに朝の会で説明され、

協力をクラスメイト全員に懇願なされている彼女の熱意に打たれなら

もう口は勝手に動いていた。


「皆、俺の有希さ......俺たちの委員長のためにもやったろうぜ!!」


「さすが私が認めた男よ! 皆の者!!

 我が麗しの友、アキのために立ち上がれ!!」


「「お、おおおー!!」」


柄にもなく情に厚い男をまたもや演じ、

今回の令嬢様の鶴の一声は有難い加勢というにはあまりにも

背中を強く押し過ぎる、肥大したお世話だった。

皆の辟易としたムードを打ち破るには声を上げるしか無かった。

三連祭を全力で駆け抜けることが己の手で確定してしまった瞬間だった


こうなったら俺が悪役になろうとも、片棒を流れで担いだエリーを姑息に

利用しようとも、有希さんのシード権獲得のためのミッションを完遂してやる。

そのためにもまずは、マラソン大会で首位になること......!


そして、地獄の走り込み訓練が始まった!!



「なあ~んでぇ......! は、ハルではなく私が過酷な訓練を......ゲホッ!!」


「ほら~、そんなんじゃ一位取れないぞー」


「でぃ、DV夫だあ~......domestic violence!!」


「綺麗な発音できる余裕かましてる場合じゃないぞー」


かくして、様々な意味で鬼と化した俺はメガホン片手に

お嬢様強化プログラムを遂行し始めたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ