夏休み編・71
祭りはメインイベントも終わって後半に差し掛かっていたが、
自分にとってはこっちが醍醐味であった。
人もまばらになった神社の境内で腰を下ろし、少し高い位置から
見下ろして帰る人々や今になってようやく祭りに参加する人たちが
入り混じるごった返した人ごみを遠巻きに見ている。
これが自己流の楽しみ方、別名・孤独の祭りなのである。
命名は当然毒舌のきょうだい達、
妹が祭りのボッチと言ったのを弟が哀れに思い、上に改訂してくれたものである。
カッコつけてきょうだいに何でも話すものではない、というイイ例だ
しかし今回はゲストが来ている。
とんだ企画倒れだ
「これ、面白いかぁ?」
「帰るも座るも好きにしなよ。
たまにはボーっとするのもいいもんさ」
そう聞くとすぐ隣にチョコンと座ったのが緊急ゲスト、
花山財閥のご令嬢様だ。
有希さん、吉沢さんと別れてエリーが一緒に帰路につこうと
誘ってきたのを制して今に至る。
本当につまらないものなので帰ってくれて構わなかったのだが、
なんだかんだ付き合いがいいのが彼女の美徳と認めざるを得ない
まあ、一人で帰りたくないという部分もあるだろうが。
「ほれ、彼らを見てみろ」
「あの大学生くらいの男連中か?」
「ああ、何をしていると思う?」
そわそわとしている男二人組を指して
エリーはよーく観察した後に、軽く答える。
「誰かを待ってる」
「そうだな、では誰を?」
「えぇ? そんなの分かる訳......」
「じゃあ俺の予想をいいか? 俺は女の子待ってると思う。
それもそれぞれのガールフレンドだったりしてな」
半笑いでそんなの当たらないさ、というジェスチャーをした
生意気小娘の顔が驚愕に変わるのは、そう時間は掛からなかった。
ものの二分後のことだった
「ええ!! 本当に女が二人きた!!
しかもあの親し気な感じ......はわわ」
「な? 当たったろ?」
大胆にも抱き合う姿を見てエリーは木陰に身を隠しつつ、
顔をガッツリ出して問うてきた
「なぜ分かったんだ! いつの間に超能力者に!?
未来の嫁として鼻が高いぞ~!」
「んな限定的能力いらないっての。
それに冷静に分析すりゃ分かるもんだ」
「そなの? 待ってる相手が男友達だったり、
普通の女友達の可能性もあったろうに」
そんな反応を待ってましたとばかりにちょっと早口に解説してやる。
要は人間観察の賜物だ。
「例えばお前が同性の相手と待ち合わせをするとする。
相手は何かしらの事情があって遅れると......そしたらお前はどう思う?」
「私はそんな経験ないぞ」
「うっ......そ、想像でいいよ」
調子づいて例え話を持ち掛けた途端、
垣間見えた常識破りの闇に胸が詰まる。
考えてみればずっと引きこもっていたこやつにそんな経験が
なくてもおかしくはない。
もしかしたらそんな遅れてくるような友達はいない、
と言いたかったのかもしれないが明らかに孤独の女であることは
目の暗黒が語っていた。
そんなんでどうやって高校生になるまで生きてきたのだろう?
「まあ、ハルならともかく友人との待ち合わせでの遅刻はイラつくかも」
「そう、それだよ。
同性を待っている間に陥る感情はソワソワじゃない、イライラさ。
気が知れてる仲ほど、その傾向は強くなる。
ましてやこんな祭りにまだ関係の浅い友人を呼ぶことはまずない。
そこで関係性の深い同性を待つなら苛立った様子、
落ち着かない様子であれば異性であると選択肢が絞れるわけだ」
「なるほどぉ~!」
後々思えば稚拙な推察なのだが、エリーは本心からしか物を言わないので
純粋に関心されているのが分かると誇らしくなってしまう。
彼女と変わらず俺もまだまだ幼いものだ
「そうした人間観察の他にも楽しいことはあるもんさ、例えば――」
「お、治雄じゃん!」
測ったように現れたのは中学時代の同級生だ。
特に遊ぶ仲でもなかったが、こういう雰囲気の時は互いの偶然の再会を
喜ぶことも珍しくはないのである。
短く身の上話を済ますと彼が今通う高校の友達と思われる集団と共に
また人ごみの中に姿を消していった。
「こんな風に昔の知り合いとほんの少しだが交流もできたりする。
これもボーっと留まって祭りを楽しむ一つの方法だな。
歩き回るのは疲れるし、会えても急に立ち止まっての会話は展開できない。
それで俺はこれに行き着いた」
「孤高な私にはできない楽しみ方だな」
「あ!」
またもや空気が悪くなりかけたが、再び俺にゆかりのある
人間の声がした。
連続で出会うことは極めてレアなので誰かと思うと振り返ると、
「美咲知らない?アンタと一緒にいると思ったら、
まーた浮気の現場に出会うとは」
さっきとは打って変わって法被姿の幼なじみ2号、麦野 亜美であった




