夏休み編・69
そんなこんなで祭りに戻る頃には吉沢さんもいつもの調子になり、
全ての元の状態に戻っていた。
手つなぎが恋人つなぎになっていることを除いては
「ね、ねえこの繋ぎ方じゃなきゃ本当にダメ?」
「お兄ちゃんなんだからそんなこと気にしないでよ」
「いやいやお兄ちゃんだからこそだなぁ――」
「あー!!」
誰かに大声を浴びせかけられ、同じ学校の奴にバレたかと体が跳ねたが
振り返るとちびっ子怪獣令嬢だった
「なぁんだ、お前か」
「なんだとはなんだ! やいやい!
人の男となーにを手をイヤらしく絡めてるのだ!」
「あ、エリーちゃん! エリーちゃんも繋ぐぅ?」
「結構でしゅ!」
怒りに噛みつつ、早速空いていた左手をエリーにホールドされた。
「あ、おい! そういや有希さんどうしたんだよ」
「あー、迷子になっちゃたみたいだな」
「逆ぅ! どうみてもお前が迷子だろうに」
「なんだと! 今の時代、人を見た目で判断すると
パリコレだかバリスタみたいのがうるs――」
必死の抗議を遮るように聞こえてきたのは場内アナウンスだった。
「ご来場中のお客様に迷子のお知らせをいたします。
背丈が11歳くらいのガッツリハーフっぽい女の子の
薫ちゃんが迷子になっています。
お心当たりの方は案内所までお越しいただくか
お近くの係員までお知らせくださいませ」
「あの子じゃね? つーかお父さんとお母さんと既に一緒じゃん」
「無礼な奴め! 誰だ!!」
周りから笑われる恥ずかしい小娘を二人で抱えてそそくさと
案内所まで小走りで急いだのであった。
「あ、薫! もう心配させないでよね」
「それはこっちのセリフだ、アキ! やれやれでちゅわぁ~」
「おい! 言葉を慎めよ!
お前が何でもかんでも頼って有希さんに甘えたせいだろうが!!」
背中からどつくと猿の如く飛び掛かってきて、見苦しい引き剥がし作業に
軽く数分を要してしまった。
その様子を女子組は笑って見ていた。
とにかく吉沢さんが元気になって、良かった良かった
その後は4人で屋台を回ることに。
これで当初の予定とは狂いながらも、憧れていた人と
祭りを歩けるなんて本当に夢のようだ。
賑やかな光に照らされる浴衣姿の彼女は神々しさすらあった
吉沢さんもついでにエリーも綺麗ではあるが、
こちらは学生らしい可愛さ込みであるのに対し、
有希さんは恐らく傍から見ても大学生くらいに見えた。
つい最近話すようになって聞いたが、彼女の将来の夢は教師らしい
きっと皆の憧れの的の先生になるだろう。
その前にとんでもない美人実習生が来たと持ち切りになるに違いない
そんな彼女は面倒見がイイことも適性の高さを現わしている。
ヨーヨー釣りで手こずる吉沢さんとエリーに有希さんは手取り足取り懇切丁寧、
かつ見事に吉沢さんを一夜にしてヨーヨー釣り名人にする実績を
しかと目の前で見せてもらった
隣のお嬢ちゃまは相変わらずだが。
「全然できないぞ!」
「有希さんからの教えはどうしたんだ!教えは!!
吉沢さんはできてる! つまりお前が悪い!!」
「い、一生懸命やってるんですぅ! うわ~ん!!」
見るに絶えないどっかの議員みたいに泣き崩れながらも
何とか一つは取って、調子に乗ってバカみたいにその貴重な
一つのヨーヨーをビヨンビヨンした結果破裂させた時は
流石に腹を抱えて笑った。
おもしれー女だ
その後も射的の腕前も有希さんは凄まじく、構える姿はまさに
伝説的ヒーローのようであった。
「お、嬢ちゃん! 様になってるねぇ、ゾンビの蔓延る世界でも
生きていけそうだな」
「いえいえ、そんな......」
謙遜しながら撃っては当たる、撃っては当てる。
店主のオヤジが段々と青ざめ、来年には
当たったらもう一発無料ルールは絶対に無くなることは必至だった
他にも型抜きは見本級のを作り上げ、
完全に運ゲ―のはずのくじ引きでも大当たり。
さすが俺の憧れの人だ
その隣でそこそこ上手くいってる吉沢さんに比べて、お嬢ちゃまは
型抜きではバッキバキに失敗して奇妙なお面を被った子供に
おもちゃの銃で頭を撃たれ、宝くじでは唯一のはずれを引き当てるという
どう転んでも笑いを取る女になりつつあった。
コイツは芸人にした方がいいかもしれない
こうまで比肩して並ぶ者なしの超人っぷりを見ていると、
益々有希さんへの想いが再燃していく。
こんなに凄い人が誰かに既に恋焦がれた経験があるなど......
そいつがどんなに凄い奴かは勝手に脳を破壊された気分で
気を失っていたので覚えていないが、恐らく大したことない!
彼女を超える奴がどこにいるというのか。
今の自分たちの高校はもちろん、彼女がこれから進む大学でも
企業でもそんな奴はいないだろう
そうして先のことを考えると急に切なくなる。
今のこんな輝かしい青春はいつまで続いてくれるのだろう。
こうして笑い合えるこの素晴らしき仲間といつまで
一緒にいられるのだろう
楽しい時だからこそ変に暗く考えてしまう、
自分の悪癖を呪いつつ美しい夜空を仰いだ。
すると突然、見上げていた空に光が走った




