夏休み編・67
そしてしばらく経って来たるは、
人の気配のない祭りの光が遠くに見える墓地と神社の狭間。
人酔いしたというので彼女をここまで連れ出した。
決して、逢引きなのではないかとかそんなこと期待してないんだからね
「ふぅ......」
艶っぽい一息にビクッとしつつ、
振り返ると彼女は古びたベンチに腰を下ろしていた。
いつも大勢の肉親に囲まれていると他人の群れには抵抗がなくなるのかな、
とも思った。
そんな分かるわけもないことを考えながらベンチの端に座る
「なんでそんな離れて座るの?」
「いや、気分悪いだろうし近付かれるのも嫌かなって......」
「逆にナツとしては......」
そういうと彼女はススッとお尻を滑らして隣に来ると、
肩に頭を預けてきた。
内心ではヘアッ!?という巨大ヒーローの鳴き声が飛び出していた。
「こっちのが楽かな」
「す、好きにしたらいいんじゃない?」
「うん、ありがと」
どうせ、こんなことを他の男にやっているんだ
付け上がるな、山崎治雄!
そんなフレーズを念仏の様に唱えても髪の匂いも確かな熱も
しっかりと伝わってくる。
尚且つ寄っ掛かりずらいと腕を回すことを催促されるもされるがまま。
傍から見れば避けて通られる、完全にそのムードのカップルだ
何かいけないような事をしている気分だ。
まだ彼女はいないし、不純異性交遊を野外で行おうとなんてとてもとても......
と釈明しつつも犯罪でもしてるかのように心臓は早鐘を打つ。
首を少しでも彼女から反対側に向けるのがやっとだ
どうしてこんなことをしてくるのだろう
彼女は言った、取り合ってるつもりはない。
彼女を知ってる、悪戯でこういうことをする子ではないと。
いや......本当に自分は吉沢さんを知っているだろうか?
その過去も、苦労も知る由もない自分が、
最近知り合った自分何故知った気でいれるのか
知り合ったのは、そうだ
「こんな時に聞く話なのか......そうでないかも分からないけど......」
「何でも聞いていいよ......?
遠くを見ていてもまだ気分が晴れないから」
言葉に詰まる自分に彼女は優しく応えた。
ならば前から気になっていたことを素直に聞こうと思った
「なんか吉沢さんって、性格変わるようなことが......たまにだけど!
......ないかなぁ?」
沈黙が続くとさっきまでの高揚が一転、
ライン越えをしてしまったかと嫌な汗が出始める。
刻は既に夜、暗い月明かりの下で涼やかな風と鈴虫の音色が
流れる空間。 遠い祭りの明かりをいつまでも見ていられる。
動きもせず、返答に窮する唸る声も聞こえず遂には寝たのかと
確認しようとゆっくり彼女に向けて首を動かすと、
そこには大きな瞳がこちらに向けられていた。
驚いて目を背けることもできないほど、じっと互いに見つめ合っている
こういう時にエリーや誰かがこの空気をぶち壊してくれることを願ったが、
助けも邪魔も来ることはなく、どれほどの時が経ったかも分からなく
なったころにようやく吉沢さんは目線を外してくれた。
そして奇妙なことを呟く
「もうすぐお盆だね」
「......え、うん」
一瞬言葉の意味すらぱっと浮かばなかった。
こんなにもドキドキしているのは自分だけなのだろうと、
恥ずかしさが理性と火照りを呼び覚まし始めた
そしてそっと俺の手の上に彼女が手を重ねてきた。
さっきまでの自分なら冷静に把握できなかったことが
今では、ハッキリと分かった、
吉沢さんの手は異様に冷たく、彼女の瞳は今やしっかりと
墓地に向けられていた。
何か様子が少しおかしい。
祭りの中で握っていた手はこんなにもこちらの体温を奪うような、
血が通っていないかのような温度はしていなかったはず
そして彼女の視線の先も気になる。
肝試しではいつも通り溌剌ながらも怖がる姿もあった。
そんな彼女がじっと夜は少し気味が悪い墓地を見つめている
ありえないことだが、ありえない話と分かりながら
様々な憶測が飛び交う中、手をゆっくりと引き抜こうとした時
突然、強く俺の手が掴まれた。




