夏休み編・63
「ほぉ~~~!!」
並ぶ屋台の光に反射して彼女の瞳は信じられないくらい綺麗に輝いた。
顔立ちは洋風でも浴衣という和風衣装は持ち前の外観の良さで似合うのものだ。
幼児体型だけに馬子ならぬ孫(幼子)にも衣装(は似合う)というものだろうか、
黙っていればこうして見ている限り純粋な美少女なのになぁ......
「ふふっ、嬉しそう......あんな姿を見れて良かった
連れ着てくれてありがとう」
祭りの光へと駆け出していったエリーを我が子の様に見守るのは
浴衣のCMに出れるレベルの着飾った有希さん。
そう、この山崎治雄凄まじいほどの勇気を出して彼女をも誘い出していた。
すまないお嬢様、そんなつもりはなかったのだが
君を女の子を誘い出す練習台にしてしまったこと、
本当に申し訳ないと思っている......!
エリーを誘い出せたことで調子を良くした俺はこともあろうに
憧れの人もスカウトできると意気込んだ。
誘い文句にアイツも来るから、を使えるのは非常に心持ちとしても
異性を誘い込む交渉の場では強いのだ
明らかに有希さんの目の色が変わっているのを覚えている。
それに付け加えて、
「薫の浴衣姿とか見れたりするかな......?」
控えめに聞きながらも声の調子には明らかに期待が込められていた。
その場では、力強くその通りだと交渉を進めて
即刻約束を取り付けるとエリーの元へ浴衣で来るようにと指示をした。
服装まで指定されるものだから勝負服で来る!
とそういう時に限って純粋に気合の入った目を向けられた時
俺は邪な理由があるわけだから直視できなかったわけだが......
結局二人きりじゃないと知っても有希さんであったためかそこまで拗ねず、
何より祭りの空気はそんな些細な不満を取り払ってくれた。
誰も不幸じゃなきゃOKです!
「あんなに走って......羽目を外しすぎないか見てくるね」
「ああ、いってらっしゃい」
優しい笑顔の有希さんをつい見送ってしまった。
ただ、あの笑みを見て二人きりで回りたいなどの狡い気は起きなかった。
それに......
「これで二人きりになれそうね、どこかの兄弟が空気を読んでくれれば!」
「ん? どうしたんだ米田の奴、誰のこと言ってるんだ」
「わざと言ってるんだよね、兄貴......?」
もちろん俺を含めた三人で済むわけない。
今やいつもの、と関したメンバーも一緒だ
「楽しんできなよ、兄貴はなんとかするからさ」
「なんだよおい! ここまで来て別行動か?多い方が楽しいだろ!」
「あ、兄貴が大好きな射的あるよ」
「なんだと!?どこだ!!」
巧みな誘導で兄を遠ざけ、よくできた男はサムズアップしてその場を去り
しっかりと幼馴染の理想のシュチュエーションを作られてしまった。
六人で入口まで来てものの数秒の出来ごとである。
一番自分にとっては気まずい状態が出来上がってしまった。
「さ、行きましょ」
ただそう思っているのは自分だけ、最近美咲は上機嫌に好調子。
怖い者知らずという感じだ。
だからこそ、自然に差し出された手が震えて見えるなど
きっと夜の暗がりのせいだろう
皆に噂されると恥ずかしいし......なんてもうネットに晒されている
今更の状態では断ることもできず、変に恥ずかしがるのも大人げないので
精一杯の平静を装った声で、「迷子になられても困るからな」を
決め顔で言おうと思ったところで
「あ! いたいた~!」
後ろから颯爽と現れたのは、薄着姿の吉沢さんだった。
走ってきたので風を伴って運ばれた匂いは何か甘ったるく、
危うく膝から崩れ落ちるところだった。
恐らく密室であの匂いが充満していたら俺は死ねる
アイスのように溶けそうな理性も隣を見れば、大丈夫。
暑さ煩悩吹き飛ぶ修羅の如き表情がそこにはあった




