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夏休み編・60

「ふぅ......一時はどうなるかとナツ心配だったよ ねえ、アキちゃん?」


「ホントね」


近くのベンチに座る吉沢さんや有希さんは今でこそ

困り眉で笑って済ませているが、

当時は本当に帰れるのかを青ざめて深刻そうにしていたと記憶している。

あれだけの大人数の食糧問題も夜の宴のおかげでいよいよ本格化し、

日も沈みかけて真のサバイバルが始まるか、というところで

救いの船がやってきたものだから皆大はしゃぎだった。


どうあれあの時抱き合って喜んだ女子組二人に限らず多くの者が

このイベントで新たな絆を得ていた。

あれだけツンケンしていた美咲も頼れる武闘派リーダーとして高校生組皆から

熱い信頼を受け、糸田兄弟もある程度は女子組と気楽に話せるようになった。

社交的な面々は一部の使用人やメイドたちとも会話をしている様子が見受けられる


今は、船の上。

美咲と一応糸田兄弟の協力による共同犯行によって朝方に搭乗のはずが、

美しい夕焼けと楽しかった島を背に帰っているところだ。


「本当に貴様は面倒の元だな......」


「ふん、悪かったって何度も謝ってるじゃない」


「まあまあ、皆無事なんだし夕焼けを進む海の帰路も良いじゃないか」


相変わらず仲良く喧嘩する令嬢と幼馴染に挟まれながら潮風と

燃えるように赤い夕陽が水平線に消えていくのを

船のデッキに寄りかかって眺めている。

背後では未だ生還できた余韻に浸る大人たちと淳が騒がしくしている


「流石のメイドさんもあの時ばかりはポーカーフェイス?とかいう

 表情ではいられなかったみてぇだったなぁ!」


「貴様など元の強面が恐怖に引き攣って実に滑稽だったぞ」


大の男と小のメイドが煽りあっているのを一慶は苦笑いで、

他二人のメイドは微笑ましそうに見ている。

ビッグメイドの腕を組んで見守る貫禄などお母さんというよりお父さんだ


「ふぅ......ホントに皆無事で良かった」


「そうそう、今や我々は有名人なのだからな。

 この企画が終わった後に死傷者が出ました、では済まないからな!

 この花山財閥の令嬢として誰一人として!

 犠牲者を出さぬよう奔走したかいがあった......」


「短い連絡だけして呑気に寝てるか、

 森での探検をエンジョイして時間潰してただけじゃない......

 本当にコイツって......勝手よね」


「似た者同士なんじゃないか?」


そんな冗談でも二人は息ぴったりでこっちを睨みつけてきた。

コイツらの仲の良さは相変わらずだ。

そう、非日常を楽しんだ後は変わらないいつもの日常はやってくる


そのはずだったのだが......


「でもこれからは、大々的に配信された高校生としての日常になるのか......

 そもそもよく見てみたら広告打ち過ぎだろ、たまたま俺が

 ソシャゲしかしてなかったから気付かなったけど、

 どのサイト見てもお前が手を回したであろう広告が

 所狭しと並びまくってたってことで、

 広告 全部 一緒 怖い が、トレンドになってたらしいぞ......」


「本来、私とハルの恋が成就する瞬間を世界的に見届けてもらい

 祝福されるはずだったのに......」


「その計画も裏目に出て、アタシと治雄の関係が確定したことの

 証拠になっただけね! いい気味!

 ......めちゃくちゃ恥ずかしいけど」


ある意味では俺だってあの茶番で幾度もカッコつけやら情けない姿やら

美咲と同じく初キスが全国に放映されたりと、もう婿に行けない状態だ。

そう捉えると関係が確定してしまったというのは、あながち過言ではない


しかし、それを頼もしくもエリーは打開してくれるという


「まず敗北から主人公の戦いは始まるものだ。

 初陣から上手くいくことなど天才だけなのだよ。

 私にはその慢心はない! 努力して次から勝てばいいだけだ!」


「ふーん、じゃあ治雄は譲るってわけ?」


「このたわけが!

 ハルを巡る戦いの第一セットをくれてやっただけだ!

 ここからが! 私の逆襲の始まりだ!!」


打ち切られそうな熱意を彼女は真剣に声高に語った。

朗らかな雰囲気の皆を見ながら、横で勝手に自身が争奪されていることを

いつもの様に聞き流しながら今後どうなるのかを

蒼と橙が混ざる空を見て心地よい風に吹かれながら一息つくのだった。

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