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アイランド・サバイバル編・33

場が騒然とする中、自分は茫然としていた。


何か決定的なものを失って、新しい何かを得た感覚......

残ったものを探すように唇をいつの間にかなぞっていた......


「な、何をしたのか分かっているのか貴様!!

 お前はハルとそ、そのちゅ、ちゅ、チューを――」


「ええ、キスをした......それが現実」


どさくさ紛れに強者の風格を纏った小狡い女子高校生に

その場にいた誰もが気圧されていた。


たった一つの接触がうら若き乙女を変えた。

そして数多くの者が望んでいた結末ではないものを迎えてしまった、という

彼女の語る現実が重くのしかかってくるのを感じていた


しかし、それは花山財閥の使用人に限った話であり


「お、お、おおおおお!! おい、見たか一慶!!」


「う、う、うん」


興奮のあまり弟の肩を執拗に揺らす男と揺らされる男のセリフが

張り詰めた空気を若干弛緩させた。

それがきっかけだったのかもしれない


「ふっふっふ......」


笑い声が聞こえ始めた。

最初は意地悪な美咲の声かと思ったが、そうではなかった。

むしろそれは、敗者である花山のものだった


「はーハッハッハ!! なるほど、なるほど......実に愉快だ!」


あまりの展開に気でも狂ったかと思ったが、その顔に淀みは無かった。

どこか清々しさすら感じた様子は不気味ではあるが、

平静を保ってこの結果を受け止めたように見える。

ライバルなそんな姿を美咲は訝しげに黙って見据えていた。


「この勝負、今の内は貴様に預けておくとしよう......

 第一幕はこれにて閉幕としよう! これにて撤収!!」


そう言い放って指を鳴らすと、木々を揺らす風がより一層デカくなった。

大令嬢ともなると自然すら従属させるのかと皆が天を仰ぎ、

風と葉の音が鳴り止んだ時、辺りを見回すと


「あ、あれぇ!? 花山どころか使用人さん達も消えているぅ!?」


淳が叫んだ通り、全ては夢幻であったかのように

あの茶番の黒幕もその手先たちもものの見事に姿が消えていた。

動揺してキョロキョロする一慶からも分かる通り、兄弟二人から演技が

ないということは、本当の終わり。


理解及ばぬ展開ではあったが、ご令嬢様の満足によって

遂に茶番もとい俺の戦いが終わったのだ......


「みんな! とりあえず宿泊先まで戻るわよ!!」


俺を除いた高校生組がこの先どうするかをオロオロとしている中、

更に逞しくなった美咲が指示を飛ばす。

それに反する者はなく、兄弟と女子組はあれやこれや話ながら引き上げていく。



自分は残された無駄に豪華な舞台と空に煌めく星空を眺めていた。

火照った身体に初めて知った感触、唐突な終戦による脱力感で

疲労も相まって棒立ちにならざるを得なかった


ともかくどこを見ても美しい光景だった。

木々の先に見える月が照らす海は輝き、数多の炎に照らされる

舞台の造りは職人のこだわりを感じる。

なんといっても夜空の星は宝石を散りばめたように、溜め息が出るくらい綺麗だ


「いつまでボーっとしてんの......ほら、行こう?」


気付けば美咲が傍にいて手を差し出した。


二人きりの時の方が素直になれない彼女は、もういなかった

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