アイランド・サバイバル編・25
優勢であることの高揚、戦いにおける愉しさ、
そして独占できる尊い期待。
これに包まれた状態では......
「止められないッ!!」
幾度弾いたか分からぬほどに慣れた技で相手の攻撃を無力化すると、
思いの丈を叫びと共に攻撃を敵役に叩きつけた。
もうあっちは本当に血だらけの様だ。
それがリアルなら高揚も冷めるところだが、所詮は偽物。
遊戯の域は出ておらず、それでいて本気の勝負で勝ち越している
息は上がっているが、気分の上がり具合はそれ以上。
この舞台が気持ち良くて仕方ない。
そんな己を目的を失った哀れな迷子だと分析する、
冷静な思考は心の奥に追いやっている。
このまま、このまま......ずっと続けばいい
それが無理ならいっそ......
その先の言葉が、意志が、勝利に向かってしまっていることに
疑問すら感じなくなる時、
天罰が下るかのように事態は動いた。
「くっ、アアアッ!!」
相手が唸りを上げた。
天に向かって吠える姿は勇ましさよりも正気を失っている様子にさえ思えた。
それが間違いでないことがすぐに証明される
なんと、敵が武器を、捨てた。
「グおおッ!!」
そして突っ込んで来る。
所詮武器の模造品では全力のタックルを止めるには能わず、
空しく背中を叩いた一撃を物ともせずに身体を丸ごと突き上げられるような
感覚に襲われた。
レスリング選手のような鋭い体当たりに背中から床に叩きつけられる。
喘ぐ暇もなく覆い被さられると、殺る気を顔に滲ませた男の影が
自分をすっぽり包んで、マウントを取られたことを気付かせる。
その後は記憶が飛ぶほどの痛烈な連打に見舞われた。
そこに技や効果的な殴り方など有りはしない。
傍から見れば狂喜乱舞の知性の欠片も無い攻撃だと言えよう
ただそれを受けている身としては一溜まりもない。
そんなでたらめな手段こそ前にして為す術がない。
身を捩らせて顔を守ることしかできない。
このままでは、本当にまずい
考え無しに未だ武器を握っていた方の手で抵抗したことが幸運だった。
柄の部分が的確に敵のこめかみにヒットした。
さほどの痛みはなくとも致命部位に衝撃が加われば守りに転じてしまうのは
本能の仕業だ。
一瞬攻撃が止んだ隙にこちらが反撃の殴打をしたことで、
逃げる様にして拘束状態が解くことに辛くも成功した。
そこに狙いがあったわけではない。
必死に助かりたい思いで繰り出した適当なものが少しでも効果的な
ものでなかったのなら、それからも延々と殴られ続けたことだろう。
運が良かっただけだ。
途端にそうした恐怖に頭が冴えた自分は審判役に咄嗟に顔を向けていた。
あっても無くても変わらない薄っぺらいルールの中で一つだけあった反則、
攻撃は武器によって行われなくてはならない。
そう、もう奴は反則負けだ。
そんな想いを込めた瞳を審判は目にしながら、
あろうことか?を浮かべた様な顔をしていやがる。
既に敵はまたもや小細工無用の接近戦を素手にて
敢行するつもりしかない。
「おいおい、どうすんだよ......」
思わず漏れた弱音に反応してくれる者もいなければ、
励まされるはずの声援は熱を上げて肉弾戦を奨励しているかのようだ。
ここに来て自分はか細くともルールに守られていた対決ごっこから、
問答無用の喧嘩に変わったことを青ざめながら理解した。
この絶体絶命、どう切り抜ける......君ならどうする!
時を飛ばして次回の俺に託したい、治雄少年なのであった。




