表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/274

アイランド・サバイバル編・24

ただでさえ機能重視で短い得物を両手に装備している自分にとって、

槍といった物とは相性が悪いものだと理解している。


それも本物であれば切り落とすこともできるがそれは不可能だ。

しかもその想定は双剣側が達人であればの話であり、

自分のような素人はそのリーチ差だけで圧倒されることだろう。


なれば今すぐ武器を変えることこそ最善だが、生憎その救いがぶら下がっている

柵はここから遠い。

今背にしている柵との間にはぽっかりと隙間がある。

最短距離で行ってもその後退を許さないゾーンを抜けることは出来ない。

そこを狙われて攻撃されれば自分は場外に真っ逆さまだ


だったら、また隙を作って活路を見出すしかない。

そのためには不利だろうと突っ込む他ない。

それに懐に入れば有利なのはこちらだ


威嚇のように雄叫びを上げてこちらから突っ込む。

しかし相手は怯まず、どっしりと構えている。


繰り出される一撃を既の所で躱した。

顔面に放ってくるなど躱し易くて助かったが殺意剥き出しだ。

塗料が出る以上目に入ろうものなら戦闘不能は確実である。


片方の剣で槍を払うと眼前は無防備の姿が迫って来る。

それを実物であれば完全に仕留めるコースの首の頸動脈目掛け、

もう片方を力いっぱい振り下ろす。


剣らしからぬ快音が響き渡り、小さく相手が呻いてよろめく。

すかさず後ろに引いた左腕の方で顔面を横薙ぎに捉えた


本当に鈍器で直撃を喰らったかのように鮮血が如き紅が宙を舞った。


この戦いのルールがルールであればクリーンヒットで

優勢を貰ってもイイ所。

しかし、今立っているルール無用の闘技場。

ギャラリーたちの歓声も最高潮に達し、仮初めのはずである

慈悲なき決闘が現実味を帯び始めた。


ライバルの顔からは驚くほどの染料が滴っている。

付着すると流れ落ちずらい加工でも成されているのか、

よく出来ているものだと感心する。

それこそ一瞬、本当に出血させてしまったかとヒヤリとするくらいだ。


荒い息遣いの中、睨み合いが再開した。

今の有効打を放った直後に武器を変えるべきだったが、

何か自分は妙に落ち着き払っていて直ぐには行動を移せなかった。


いや、移さなかったのだ


ただそれは賢い理由などがあるのではなく、

どころか愚かにも理性より感情に流された行動に近いことを

何となく感じ取っていた。


それが何なのか、次の一手で分かり始めた。


均衡を破ったのは向こうだった。

力強い掛け声に合わせた大振りの一突き。

またもや回避は容易く、反撃も素晴らしいタイミングで入る


まず一つとして、この戦いを今の所優位に進められていることが

自分の慢心の原因でもあった。

それにろくに小さい頃から争い事には縁遠く、

チャンバラごっこすら危ないと断じられてきた平和の世の中で

己は想像もしえない舞台で、上手く戦えている。


どころか打ち出す攻撃は面白いくらいに綺麗に入っていく。

ボクサーの一部はストレートが相手を完全に捉えた時の快感、

狙った通りの攻めの試合になることの気持ち良さに病み付きに

なることがあると聞いたことがある。

まさに自分はその状態だった


ここまで来ると素人にしてさほど鍛えている訳でもない自分が

戦えているのは、相手が手を抜いているのはではないかとも考えられるが

目の前の形相は必死のそれである。

そこに余裕などあったものじゃない


しかし、自分はそうした戦いの心地良さの他に

また別の気持ちの浮つきがあることに気付く。

それは劣勢で余所見をする暇もないはずのライバルの忙しない

目線の先で分かった。


こうして俺達が戦うことになった要因の「彼女」の姿だ。


思えば、交換条件のようなものだった。

一慶を焚きつけるために彼女を引き合いに出し、

本気で戦わせることを扇動し、そしてお互い本気で今ぶつかり合っている。

後は自分がすんなり負ければ黒幕のアイツの思惑はご破綻、

勝利した友人の面目躍如にも一役買えるわけだ。


それが現状はどうだろう


こんなにも己こそが彼女に評価されたくて仕方がない。


「がんばえー!ハル―!!」


他のチビッ子の声援など耳に届かず、静かに清楚に満ち溢れた

見守る彼女の目線を、自分の雄姿で釘付けにしたくて仕方がない。


もし、今戦っているのが同級生同士と知れば

公平である彼女は一慶の無事も祈るだろう


だが今は知らない。

憧れのあの人は勝利を願ってこちらだけを見つめてくれている。


そんな状況で、今更引けに引けなくなっている。


そんな浅ましくも正直な自分が確かにいるのだった。

注射って前時代的だと思う

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ