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アイランド・サバイバル編・22

対峙する若い男が二人。

互いに目を離さず、言葉を交わすこともなく

熱い夜風にそれぞれの想いを内に秘めて揺らす。



高らかに審判役はルールを説明し始めた。


「我が部族における今宵の儀式、バトルQEDの仕来りは―—」


厳かさの欠片もなく、現代的ワードとネーミングセンスの無さから

名付け親はどこぞの馬鹿だとすぐ知れる。


内容はやたら遠回しな言い回しに凄みと熱を帯びた説明がなされたが、

結局のところは至って簡単な内容。


それぞれが闘技場の周りを囲む柵に架けられた武器を手に取り、

それで叩きのめし合う。

勝敗の決定はどちらかのファイターの降参、

もしくは場外負け。

加えて健やかさを証明する儀式であるのに対し、

血生臭い戦いであることも演出したかったためか、

もったいぶって最悪相手を殺してしまった場合も生きた方が

勝者であると強調されたが、当然そんなことは起こり得ない。

なんせ武器は松明の明かりにぎらつき、

幾代にも渡って血を吸ってきたかのような赤錆がどの武器にも散見されるが、

全て加工職人の手に寄るものである。


そして一番の特徴は武器は武器でないこと。

モーニングスターのようなトゲトゲな鉄球など如何にも命を容易く

奪えそうな殺傷力がありそうに見えるが、

全て安全な素材で出来ていることを俺は知っている。


前に食材だけで文房具や果ては植物などを忠実に再現されたものを

テレビで見て、その技術の高さに驚いたものだが

まさかこんなくだらない催しにもその素晴らしい職人が

起用されているのではないかと思うと、末恐ろしさすら感じる。


なんせ目の前に並ぶ武器と呼ばれるもののクオリティは、

飲食店の前に並んでいる食品サンプルレベルのものではない。

そのレベルであっても十分遠巻きに見つめる観客(同級生たち)は騙せるはずだ。

それにもし自分が裏事情を知らなければ本来の相手は屈強な巨漢。

自分が使う武器が偽物だのどうだのと気を使っている余裕もないだろう。


であるのにも関わらず、手にしてみて分かる手を抜かれていない技術力の高さ。

一慶も武器の振り心地を試しているようだが、納得といった表情だ。

そして振った後には血しぶきにも似た染料の雫が小さく床に散らばっている。

実際出血を起こさせる訳にはいかない。

しかし、流血演出がなければ盛り上がらない!

そんな考えもあってか特別にリアルな戦闘を再現できるように細工がしてある。


まさに才能と技術をドブに捨てるが如くの所業だ。


せめてもテレビの有名バラエティー番組に使ってあげた方が報われることだろう。

こんな辺境の地で、あんな小娘の道楽のために使われたとあっては

この精巧なレプリカも紅い涙を流すことだろう。


風も異様に強まっているためか木々のざわめきも尋常ではない。

まさかこの風力さえ裏で人工的に起こしているのではないか、

そんな要らぬ詮索すら始まるほどの無駄に豪華なこの企画。


「金でどうにでもできると思っているつもりか......」


これほどまでに仕上がった舞台で勝利することはさぞかし気持ちいいものだろう。

そして緊張の解放から共に苦難を乗り越えた者から告白を受ければ、

気分よく承諾するのが道理......ともなるはずであったろう。


しかし、ここに来てそんな魂胆が俺の心に火を付けた。


絶対に奴の思い通りになるものか。

そうした想いが長時間の無駄によって緩んでいた闘志を再燃させてくれた。


金をかければ、

金をかけたのであれば、

人の心もどうにかできるであろう、という金持ちの浅はかな

信念に対する軽視、ここで崩す。


このまま筋書き通り空気に呑まれて花山との甘い関係を良しとしたらば、

薫という令嬢は駄目になってしまう。

金で全てを解決できると思ってしまう。


そのためにはこの戦い、負けられない。

いや、負けなくてはならない!


裏方の人たちの努力のためにも、

全力で戦い、良い勝負にすることは約束しよう。

しかし勝つことは許されない。

それに自分は思い上がっている。


何故、あんなにも熱い気持ちを語ってくれた友を倒せる前提で

この先を考えられるだろうか。


きっとここで見せたい、金よりも大事な信念というものは

己よりも彼が見せてくれることだろう。

人の想いを真に突き動かすのは、権力でも財力でもない。

また別の人の想いであることを。


こちらも全身全霊でなければ互角にもならない。

だからこそ今までウダウダと考えていたが、答えは実にシンプルだ。


全力に全力で応えるだけッ!!


「本気でいくぞ......!」



自分にも言い聞かせるように、その一言を連れてライバルへと駆け出した。

ありがとうございます!

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