表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/274

アイランド・サバイバル編・21

あれからどれだけ経ったことか。


花山が意識を取り戻し、

気を失った理由を不運にも頭に落ちてきた架空の木の実のせいにしたのは

もう何分、いや何時間前のことだったか


ロマンティックな演出のためには星空は欠かせない。

そこで花山が事前に教えられた答えを返すだけの

部族の知力テストというセッションだけで、俺による破壊工作によって

進行の大幅な変更と時間潰しのために数時間に及んでいる。


毎度答えを思い出すことに四苦八苦している有様を見せつけておきながら、

自分の賢さを自慢する彼女の浅ましさに意地悪なツッコミを入れるのも遂に飽き、

ボーっと見上げる空に星が瞬き始めた頃だった。


事態は急展開を迎える。


「えっと、確か答えは~......!」


「娘よ」


「待ってくれ、もう少しで思い出s......ああ、いや!

 答えが分かりそうなんだ!」


「もうよい、お主の健やかなる知識。

 そして無垢なる精神は証明された」


出題者役のお爺さんが慣れないコスプレと演出のためだけに座らされた、

腰に優しくない切り株に心身を蝕まれた辛さを額のシワに刻みながら

ようやく終わりを切り出した。

もう老兵による時間稼ぎは必要無いと判断したんだろう。

ホント、お疲れ様です......


「おお! どうだ!

 今日の私は、今までの私とは比べものにならないほど!

 素敵であったろう!?」


目を輝かせてこちらを向く無垢だと評判な小悪党娘に対して、

もう乾いた笑いしかでない。

茶番に付き合うための愛想笑いのつもりだが、

当然本音が見え隠れした不完全なものだ。


それでも彼女はご満悦のようだ。

その瞳は綺麗なだけに曇っていることを疑うことも出来なかった。

問題が本人の思考力にある、という物悲しい裏付けである。


「では、娘の連れ人よ。

 今度は貴様が試される時だ。

 そうしてようやく囚われた仲間の処遇も決まることじゃろう。

 闘技場に来ると良い......フォッフォッフォ」


魔法で消えたかのようにお爺さんは煙と共に消えた。

その実態は濃い霧を発生させた後、

ワイヤーを用いることで一瞬でお爺さん役を闇に引き込むというものだ。


そうして本番ではスモッグの後小さな悲鳴が聞こえてから消えた気がするが、

使用されたワイヤーが老体に優しいものであるかどうかは想像もしたくない。


「はっ、不思議な老人であったなハルよ。

 さて......私とて不本意だが、ハルの出番のようだ。

 闘技場までしっかり手を握ってやるから、怖がることはないぞぉ!」


「......そりゃどうも」


突然の友人との対峙から数時間にも及ぶ退屈、

この緩急のジェットコースターに疲れ切った俺には無論、

今更花山との手を繋ぐことを断る気力すら存在しなかった。


そんな男に、奴はさりげなく口約束をさせるのだから

花山はただの馬鹿じゃないのだろう


「この壮絶なサバイバルが終わった後......良かったら、

 苗字ではなく......私をエリーと呼んでくれないか?」


「......え? ああ、うん」


「!!」


何故隣ではしゃぎ始めているのか。

半分放心状態で、半分これからの決戦に想いを馳せて

生返事した自分には分かるはずもない相談であった。



やってきた決戦の地。

そこは大相撲春場所のように立派に盛り上がった土嚢によって築かれた、

まさに決闘に相応しいステージがあった。

周りを囲む過剰なまでの松明が不気味な夜の森の闇を悉く吹き飛ばし、

熱き最終決戦を演出していることが眩しいほどに分かる。

部族が作った観戦席にしては隠す気もなく近代的で機能的なものが用いられ、

そこに部族衣装のエキストラたちの中には捕らえれた仲間たちの姿が見える。


特異な二人を抜いてほとんどの仲間はこちらの姿を視認して驚愕は見せるものの、

疲れ切っているためか大人しいものだ。

対して戦闘民族女子たちは未だ抵抗の意思があることを

身体の揺れと怒りの表情から見て取れる。

怖いので知らない人のフリをしよう


そして......


ライバルである友は既に深々とフードを被り、

その炎に反射する鈍く輝く眼光だけをこちらに向けていた。

称賛を送りたくなるほど真っ直ぐで、

熱い夜にはぴったりの冷や汗をかかせてくれるほどの戦意を感じる。


「あれ.....あんなにちっこい奴がグラディエーターだっけ」


「ん、何か言ったか?」


「な、何でもない!!

 思ったより小柄だが強そうな相手だなッ!」


「ああ、そうだな。 思いっきり戦える好い相手だ」


難聴系を装ってフォローしてやったが、

相変わらず本音を内に閉まって置けない裏表のない素敵な奴だと呆れる。

と同時に、へたに見るからに大きくて屈強そうな相手役に変える手配を

させないための一手を投じることが出来た。


これで支配人の権力を気にすることなく、

花山のプランにも則ってやりながら、男の対決を心置きなく出来る。


実に嬉しく、同時に小細工のできない勝負を迎い入れることが確定してしまった。


勝負結果であの人の側にいていい権利が掴める訳ではないけど、

まず一番近しいライバルの心を打ち砕くことができる機会だ。


そんな好機に目をギラつかせるアイツを.....


「受け入れ、ぶつかってやろうじゃないか.....」


「ん? 何か言ったか?」


「負けたら皆で一緒にこの世にお別れを言うしかないからな。

 今の内に懺悔してたのさ、こんな馬鹿のために仲間まで天に召されることを

 止められなかった己の罪をね」


「ふ、不吉なことを言うな!

 絶対に勝てるッ......はずなのだから、落ち着いていくのだぞ!」


出来レースであることを暴露仕掛ける間抜けを他所に、

舞台へと上がる足に力が入り始めた。



さあ、勝負だ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ