アイランド・サバイバル編・18
力強く茶化さずに我が名を呼んだ友人の裏切りにも近い行為の訳が、
やっと分かった。
最悪の想定がヒットこそしてしまったが、少し安心した自分も心の中には居た。
一慶に有希さんのことを話した時があった。
その時の彼はそんな素晴らしい女性がいるのかと目を輝かせて聞いていたのを
うっすらと思い出す。
その瞬間から好印象抱き、実際に会ってみて魅力を実感して
惚れてしまったのだろう
やはり目の前の男は俺と似ている。
酷似している。
それこそ同じ、だと言えるくらいに
「この短期間で彼女に惚れ込んだってのか......?
俺が話した時、面識はないって言ってたけど」
「......それを言われると辛いなぁ
でも、人を好きになるのに長い時間が必ずしも必要ではないと僕は、思いたい」
非難することもできるポイントだが、そこを責められなかった。
なんせ、それは俺も同じ。
「それに、君だって有希さんと関わる機会が多くあった風な話し方じゃなかった」
「......もちろん、一慶を悪く言えないくらいまともに話したのも
このイベントが初めてだな」
自嘲にも近い笑いが漏れる。
一瞬でも彼を可笑しく思うような気持ちが湧き出て、それは自虐であることに
気付かされたのだから。
「つまるところ、あの肝試しの時か。
一慶が有希さんに惚れたタイミングは」
目を逸らし、少し紅潮した顔が全てを物語っていた。
おそらく本当に時間にしてほんの数分であったかもしれない。
なんせ、ホラーな雰囲気を兄がぶっ壊しながらの催しだったであろうし
ゆっくり並んで歩くことも出来なかったことだろう。
何をまともに語れたかも怪しい。
ただ、きっと間近に美しさを目にして
話す中で話通りの穏やかな性格である人を確認し、
好きになるまでの時間は十分だったに違いない。
客観的に見ればあまりにも短時間であることと共に、
それが現実としてあり得ることを痛い程、自分だからこそ分かるものがあった。
俺も同じだ。
きっと有希さんからすれば事務的な話しかけだったのだろう。
それでも入学したての当時、
受験失敗にいつまでもうなだれてロクに友達を作らなかった俺に、
真っ先に話かけてくれたのは彼女だった。
そして暗闇に突っ伏していた視界に
声を掛けられて上げて飛び込んだ、あの時の笑顔の明るさは
今も忘れられない。
【提出書類のことで話なんだけど......
そんなことよりおでこ真っ赤だよ、大丈夫?】
押しつけて赤くなっていたおでこを心配しながらも笑った彼女は、
美しかった。
その一言に尽きる。
彼女に好意を持つまでに要した時間は、おそらく
ライバルである彼よりずっと短い、本当の一瞬だった。
彼女の笑顔が、花山と会うよりも早く
情けない俺に希望をくれたんだ。
冴えない俺が到底及ばない存在、
そんな憧れに近い彼女が話しかけてくれるだけで、その時間だけが煌めいた。
そう、それはきっとライバルである彼も同じなんだ。
「協力を持ちかけられたのはいつだ? ん?
もしかしなくても、皆で森に行った時か」
「流石だね、その通りさ。
あの時は密航に対する負い目で、原住民を見つけた演技を兄貴と打った。
でも、今は違う。
僕だけは兄貴とは動機がまるで違う。
邪で、そして卑しくも譲りたくないという覚悟すら抱いてしまっている......」
「そうか......やっぱり、お前は」
次に俺が語る言葉を、一慶は非難だと予測して目を背けた。
でも、実際に投げかける想いは全くの反対だ。
「俺と同じなんだな」




