アイランド・サバイバル編・16
現れた人物とは、
「お、お前は......!」
「ああ、僕だよ」
一慶だった。
真っ先に正義感に駆られて捕らえられているはずの彼だった。
茂みに隠れるのに適しているかのような恰好は、
まさに先ほど見た怪しいフードの男の服装そのものだった。
「何故、お前がここに!?」
「驚くのも無理もないとは、思うけど
まずは落ち着いてもらいたい......僕は交渉に来たんだ」
いつも存在感がなく、
生気のない瞳に加えてだらしなく垂れ下がった彼の前髪であった
一慶の姿は無かった。
もの静かで穏やかな雰囲気は普段のものだ。
しかし、どこか決意めいた何か凄みがあった
「じゃあ、説明してもらおうか......何から聞いたものやら」
「そうなるのも無理はないよね。
だから、僕の方から順を追って伝えようかと思う。
静かに話を聞いていて欲しい。」
拒否権はないかのようだったし、
断る道理もない。
邪魔になりそうな女は横で目を開けたままのスリープ状態、
それに交渉をしたい、という言葉も気になる
「満足いくまで存分に話してくれよ」
今や人が変わったかのような友人に隙を見せない様、
強気に同意をした。
「ありがとう。
では結論からいうと、君はこのまま騙されたフリをしていて欲しいんだ」
「このまま、サプライズであるということを知らないというフリを?」
ゆっくりと頷く様子を見ながら、
増々真相が分からなくなっていく。
アイツはどこまで知っているんだ
「そうさ、勝手な事を言っていると自分でも思う。
でも君にとっても悪い話じゃないから、交渉だと言ったんだ」
「俺にとっても都合がいい? どういうことだ」
「こだわらずに考えてもみて欲しい。
君はそこの彼女、花山さんの何が不満だと言うんだい?
このまま付き合うことに、何の不安があるのかが分からないんだ」
何を言い出すかと思えば、味方だと思っていた友人は
企画者たちの目的に賛同していた。
このまま俺と花山をくっ付けようという気でいる。
交渉とは言葉だけの説得にやってきたようだ。
遠回しに言うことでこちらの反感を極力買わず、
それでいて丸め込もうという魂胆だろう
ならば、こちらも黙って話を聞いている訳にはいかない。
それでも一慶はゆっくりと、それでいて口を挟ませずに語り続けてくる。
「彼女の血筋については詳しくないが、とても普通の日本人じゃない。
それだけ特別な人だ。
故に、こんな美しい島に連れて来てくれるだけの器量と財力を兼ね備えてる。
密航していた僕ら3人も許してくれた。
外見も中身も素晴らしいと僕は思う......君もそうだろう?」
優しい問いかけに悪意だとかはまるでなく、本心から語っている。
だからこそ自分の意志も揺らいでいく。
すべきは急変した友人を疑うことであるが、話の内容にも引き込まれる。
今までのことを振り返ってみると、
花山を拒絶することに明確な理由は見当たらない。
小狡くて子供っぽいが、悪い奴じゃない。
黙っていれば女の子が欲しがる人形くらいには可愛いのかもしれない。
見た目に関しての魅力は一緒にいた時間もあって判別しにくくあるが、
内面だけに関してはそこまで文句もない。
だが、やはりそれは女として見た結果ではなく
一人の......友人として見た結果でしかないだろう。
今思えば、友人という捉え方もずれてる気がする。
隣の抜け殻女と俺はどういう関係なのか、
今一度深く考えるべきなのかもしれない。
「考えてくれているところを見ると、僕の見解とそう相違はないみたいだね。
答えはまだ、出さなくてもいい。
このまま気付かないフリをして、こなしていく中で考えれば良いんだ......
そうだろう?」
保留しながら進むこともできる、それは確かに悪い提案じゃない。
首を縦に振ってもいいかもと思えてきた。
しかし、
「分かった。 だったらこっちも質問させてくれよ」
このまま鵜呑みにするわけにはいかない。
一慶という男にどのような利点があって、このような交渉じみたことに
足を運んできたのかは定かではない。
それを暴く必要がある。
そして何より、その動機に避けては通れない因縁があることを既に
自分は勘付き始めていた。
ご愛読ありがとうございます。




