アイランド・サバイバル編・11
「ウリャアァ!!」
自分の女々しい悲鳴をかき消すように誰かの力強い唸り声が響く。
共にその声の主は、現れた影に鋭い蹴りを繰り出した。
「グ八ッ!!」
たまらず影は呻き声を上げてひっくり返った。
それと同時に華麗に着地した人物を見てびっくり、
救世主は、あの優しそうな吉沢さんだった。
こっちを振り返った時の瞳にまだ殺気が残っていて
背筋を凍らせたが、見間違えかと思うほど一瞬で
いつもの彼女に戻っていた。
「み、皆大丈夫!?」
全員、ぎこちなく頷いたが
誰しもが影よりも彼女の豹変ぶりにビビッたと思う。
特に今まで小姑のように彼女をいびっていた美咲は、
驚くべき真の実力に肝を冷やしたことだろう。
だからといって引き下がる我が幼馴染ではなかった。
それからというもの、聞いていたよりも
3割増しくらいに襲ってくる花山の使用人たちを
バッタバッタと美咲と吉沢さんは競う様に倒していく。
俺の警告よりも理性を越えた本能で反応して
即座に現れる新手を次々に仕留めていく。
いくら彼らがこちらで子供で
相手がjkであるから手加減している、
という点を加味しても異様な早さで対処されていく。
その様相、まさに雑兵を蹴散らす双星の武者が如し。
すけさん、かくさん......初代ぷいきゅあ......
いつしか出所を指示することもせず、
二人の一騎当千ぶりに息をするのも忘れていた。
吉沢さんは興奮状態の秘めたる姿をもはや隠すこともしなくなり、
美咲の剥き出しの狂暴性が抑えられることもなく振るわれ続けていく。
それをどうして正気で見ていられようか、
どうしてヒロイン扱いするはずの女子たちに活躍の場を奪われながら
冷静でいれようか。
もはや現実か悪夢かの見わけも付かぬまま、
魂を抜かれて彼女たちが逞しくも切り開いていく道を歩いて行く。
そんな情けない自分が、
もはや憧れの有希さんを眼中に捉えることは
もう出来なかった。
ついでに淳先輩のことなど脳裏にも過ることはなかった。
そうした中、放心していた自分を現実に引き戻したのは
人々の戸惑いと焦りの声だ。
未だ深層心理に残っていた、人を救ってカッコ良く見せたい
という浅ましさが偽善者を呼び起こしたのだ
声の正体は周りではなく、奥から聞こえてくる。
慌ただしい騒音、
きっと花山たちの隠れアジトであろう
予期せぬ事態にてんてこ舞いになっているのだろうと、
軽く予想はついた。
一番神の視点に近い程の優位性を持っていた自分ですら
この状況に打ちのめされていたのだから、
あちらさんの混乱には深い同情さえ感じる。
そしてそれを聞くと、二人の英雄は
歩みを更に進める。
遂に元凶を完膚無きまでに叩きのめさんとするばかりの勇み足だ。
それについていくのは真のヒロインと、
軟弱な脇役二人である。
体はデカいくせしてこれ以上ないほど不安に縮こまる男に、
舞台全ての状況を把握しておきながら放任してしまった男、
そんな者どもの横でしっかりと期待を裏切ることなく、
か弱い様である有希さん。
彼女だけが本当の希望だ。
彼女までもが雄々しく変貌しようものなら、
誠に身勝手ながら宣告させてもらおう。
この世の終わりだ。
そうして、繰り広げられてきた茶番にも
二人の女戦士によって、今まさに終止符が打たれようとしていた。




