アイランド・サバイバル編・10
ここは切り替えが肝心だ。
こうなってしまったなら、今度は守護者としてシフトしていかなければならない。
奴らが襲ってくるタイミングや場所は把握済みだ。
下見をしているわけでは無論ないが、
聴いた情報から特徴的なポイントであることは知っている。
きっと初見で分かるはずだ。
敵が誘拐しようと現れる直前に攫われる仲間を華麗に助ければ、
リーダーでなくても十分に活躍できる。
それにしても先ほどから木々の葉が揺れる音が騒がしい。
さして風は吹いていないはずだが、上空を覆うほどの
高くそびえ茂る巨大な植物たちが
こちらを見下ろして不安を煽るようだ。
むしろ作戦は上手く行くか、という元から心にある不安によって
生み出された幻聴ではないかとも疑い始めた。
そうして周りの者たちとは違う思惑で緊張する空気と、
ジャングル特有の重い湿気に身体が汗ばみ始めた時、
先に見えるものに目を見開いた。
聞いていた目印らしき、切り立った岩だ。
その大きさは影に人をすっぽり隠せるほどの余裕がある。
間違いない、ここがファーストセクターだ。
最初が肝心だ。
鮮やかなスタートダッシュから全ては始まる。
この瞬間から流れを掴んで見せる......!
距離が近付く。
あと数歩で間合いに入るだろう。
子供と言ってもこちらは全員高校生、体もさほど軽くも小さくも無い。
それを素早く攫うとしたらビルくらいの巨漢が出てきてもおかしくはない。
しかし、不意打ちの不意打ちであればこちらに利があるはずだ。
加えて俺は親玉である花山のお気に入り。
危険が及ぶ行為は禁止されているために、奇襲という形になっているのだ。
まともにやり合うことになれば抵抗することもできずに、
貧弱な高校生である俺に撤退を余儀なくされることだろう
さあ、出て来い引き立て役。
マトモに誰かと殴り合いなどしたことのない震える拳を
ギュッと握りしめ、岩陰が先頭の美咲に差し掛かると、
巨大な人影が出てくるのを覚悟して身構えた。
しかし、何もおこらなかった。
「......え?」
緊迫からの脱力で立ち尽くしてしまった。
有希さんに呼ばれて何とか我に戻ったが、
人一倍かいた冷や汗だけは体内に戻せない。
臆病な淳先輩よりもびしょ濡れな自分に、
次第に周りは言葉にはせずとも心配の目を向けてくる。
声を掛けてもらっているのかもしれないが、
まさかの事態にずっと聞こえていた木々のざわめきの騒音さえも
焦りによって聴覚から遠のいていく。
なんてことだ。
今まで築き上げてきたイカした男の姿が水の泡となってしまう。
つい先ほどまで向けられていた憧れの目とは程遠く、
チーム一番の小心者に対する同情の目線を投げかけられている。
これでは何の意味もない。
何も知らない彼らより、自分は無様にも知っているからこその
恐怖に苛まれている。
いつ来るんだ、
まさか盗み聞きがバレて作戦が変更になっているのか、
神経性頻尿でトイレに行きたくなってきた、
そんな交錯する思惑が五感に続いて意識すら奪おうとしていた。
ただ、目の前の背中を見つめて無意識についていく
登下校のペンギン状態になっていた時、
急に事は動き出す。
草陰から何か出てきた。
デカい。
優に我々の背丈など超えている。
目的も忘れて情けない叫び声を俺は上げてしまった。
その時点で先の展開を知っていようが、
クールな俺ちゃん計画は破綻していたはずだった。
だがしかし、予期せぬ出来事が結果的に
我が名誉を守ってくれたのだった。
いつの間にか夏が過ぎている




