アイランド・サバイバル編・9
どうしてスムーズな進行とは、かくも実現しにくいのか。
それは常にヒューマンエラーの危険性が潜み、
発動してしまうからである。
そして、今がそれだ!
「勝手な真似を......!」
悪役のような悪態をつきながらも自室を出る。
皆も次々に騒ぎに顔を見せ始めた。
声を上げたのは問題源の兄の淳だった。
ならば影が薄いので一時的に見失っただけ、という笑い話で済む事態ではない。
「や、ヤマオ......! 一慶が、一慶がいねぇ!」
「とりあえず落ち着いて!」
今度の彼の動揺は表情がブレて見えないほどの体の振動で表れていた。
声さえ扇風機の前にいるように震えて聞こえる。
「いつからいなくなったんです?」
「つ、ついさっき気付いたんだ......」
「気付いた?
ということは、今さっき走り去っていったわけではないんですね?」
「俺達の部屋で寝てたもんだから......起きた時にはもう近くにいなくて、
ここいら全部探していないってことは、行っちまったんだろうな......」
あれだけこの異常事態に怯えていたくせ、
ついさっきまで寝ていたという部分が引っ掛かるが
ともかく一慶は出て行ってしまった。
皆の不安を煽るような独断行動は非常に厄介だ。
なにせ......
「もうアタシ達もここで大人しく待ってるわけにはいかないんじゃない?」
「ナツもそう思う......」
こうやって感化される奴が出てしまう。
言い出したのは美咲だ。
吉沢さんは言いだしっぺの顔色を伺っての賛成に見える。
同調圧力を行使するとは、とんだ女王様だ
「何を言い出すんだ?
俺が面倒ごとはやるから、待機しててくれ」
「いつまでも治雄ばかりに任せきりには出来ない」
つい面倒ごとと本音が出たが、表情は厳格なのでセーフだろう。
ただ肩においた手は取り払われ、決意に満ちた彼女の瞳が真っすぐに見つめてくる。
さて、どうやって頑固な幼馴染を宥めるか......
そこで逆に考えてみた。
いっそのことコイツには多少、本当のことを言ってもいいかもしれない。
ひっそりと耳打ちした。
「ここはカッコつけさせてくれよ......!」
素直に、正直に言えば想いは伝わる。
純粋にそう信じた。
「......それをアタシに言うってことはカッコよく見せたい相手が、
アタシではなく、他にいるってこと?」
「......あ」
数分後。
「あのバカ女も勝手なメイドたちも全員、助ける!
皆、覚悟はいい!?」
「「おお!!」」
遂に発進した俺達の指揮を取るのは俺ではなく、美咲だ。
親衛隊が如く、淳と吉沢さんの呼応する声が響く。
他の女に色目を使っていると分かったやいなや、
とんでもない殺気を飛ばされて萎縮してしまった。
結果、頼れるリーダーの座は数分の内にすっかり幼馴染に取られてしまった
「とほほ......もう怖い幼馴染はこりごりだよぉ......」
「さっき美咲ちゃんと何話してたの?」
「......キャプテンはアイツに任せるって話ですよ」
まさかご本人の有希さんに本当のことは言えない。
それに大して嘘じゃない。
これ以上悪目立ちしないよう、指揮権を剥奪する旨を
脅迫のように囁かれたのだから。
夏をひんやり過ごしたいなら、オススメのASMRだ。
怒りを声色に忍ばせたボイスは、聴いた者の肝を冷やしてくれるだろう
「そっか、ハル君十分頼もしかったし
ここで交代ってわけだね」
「......! そ、そうです! 俺カッコ良くみえまし――」
憧れの人の目に自分は良く映ったか、
それを確認しようとしただけで飛んできた現リーダーからの凄まじい殺意に
閉口せざるをえなかった。
そうして美咲を先頭に、高校生組は全員で
ついに花山の仕掛けたサプライズという名の大きなトラップに
足を踏み入れていくのであった。




