アイランド・サバイバル編・8
そして使用人たちが救出に行ってから1時間が経とうとしているが、
皆は不安のためか広間から動こうとはしない。
誰もが大人数でいたい様子だ
そんな中自分だけは独りだけになった快適な自室でソシャゲと洒落込んでいた。
「ふざけんなよ......夏イベの周回面倒すぎだろ」
独り言は余裕とかけ離れているが。
すると、ドア越しから大きな声で話し合う声が聞こえてくる。
この緊張状態では無意味な口論が生まれることは珍しくない。
これはリーダーっぽいところを見せるチャンスだとばかりにスマホを放り投げ、
皆の元へ駆けつけた。
様相は意外なものだった。
居ても立っても居られないという風に一慶が立ち上がって、
兄である淳が腕を掴んで引き止め、周りの女子たちが諫めようとしている。
この土壇場で熱血漢の性格が影の薄い彼に湧き上がっているというのか
これでは自分がピエロになってしまう。
浅ましい考えとは反対にリーダー気取りの声で一喝する。
「皆、どうした!? 騒々しいぞ。
静かに朗報を待っていればいいのに、何があった」
「あ、ハル君......それが一慶君も助けに行くって言い出してるの」
「なんだと......!?」
有希さんに助けを求めるように言われたなら、
ここは全力でこの男を止めなくては、と勇む。
「おい、何考えてるんだ。
一慶らしくもない」
大人しく慎ましやかにしていてくれないと俺だけがかっこよく目立てないじゃないか、
という本音をグッと飲み込んだ。
「らしくなくたっていいよ!
ここでジッとしているくらいなら、何か行動に移したいんだ......!」
なんということか。
コイツ、マジの奴なのか......!
天然で、これか。
このままでは偽物である自分が目の前の本物に負けてしまう。
偽物が勝つためにすべきはただ一つ。
「抑えてくれ、誰か一人の勝手な行動でも皆が危険に晒されるんだ」
皆の安全をだしに鎮めるしかない!
「でも......」
「気持ちは分かる。
俺だって出来ることならとっくに助けに行ってるよ」
もちろん嘘である。
本当の状況を知らなくてもこれっぽちも思うことはなかったろう。
誰が危険を顧みず、好きでもないあんなワガママ女を助けると言うのか......
そう考えるともしや一慶は花山のことが......
そんな有り得もしない可能性が一瞬よぎった時、
今まで余裕に溢れた心に束の間モヤっとした感情が巻き起こった。
首を振って余計なことは振り払い、熱くなる男の肩に手を置いて
言い聞かせるように諭した。
「ここは救出隊を信じよう。
まだ日は高いし、隠密に助け出そうというには時間が早いだけかもしれない。
きっと間抜け面のアイツを連れて皆帰ってきてくれるさ......それでも、もし
夕暮れが近くなって今のままなら......」
神妙な面持ちと低い声で、次に紡がれる言葉を誰もが静かに待った。
出来るだけタメを作り、出来るだけ決意に満ちた表情で
「俺一人で行く、誰も止めてくれるな」
ハッキリと宣告した。
というか、そうしてもらわないとそれこそ困る。
俺の算段としては、このような不安と緊張が限界にまで引き上げられた状況から
見事、元凶であるアイツを連れ戻して何食わぬ顔で皆を救うことだ。
これによって、ここにいる誰もが
特に有希さんが!
俺を尊敬の眼差しで見つめてくれることだろう。
そうして我がプランは完璧に終わるのだ......
考えている流れはいかにどのようにバレずに花山を持ちだすか、ということに
関する筋道がほとんどであるが、
重要なのはまず、自分だけがここを自然な形で離れることだ。
だから、だから......
どうか皆大人しくしていてくれ......!
急に変化や成長をみせる面々の余計な行動が出ない様、
自分は祈る様に、
そしてそんな情けない心情を悟られぬよう飄々とした態度で仲間達に
背を向けて、ソシャゲの周回作業へと自室に戻った。
そして恐れていたことが起きたことを知らせる声が、
ものの2時間後たらずで家中に響いた。
「大変だ! 一慶がいない!!」




