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アイランド・サバイバル編・6

続け様に、男らしさを見せつけていく。


「なにしにきたんだ。

 うちのじゃじゃ馬を攫ったのに飽き足らず、こんな気持ちいい朝を

 邪魔しに来るとは大層な用事なんだろうな?」

 

こんな大胆発言に驚くのは異民族役の彼らも例外ではない。

それはそうだろう、騙す側がまさか今まさにこんな小僧に利用されているとも知らず......

有希さんをチラッと見る。

こんなにも男らしい男だったとは思ってもみない驚きを顔に出しているではないか。

口角が上がるのを咳でごまかす。


相手方も困惑しながらシナリオ通りの次のことを語った。


「お前達は我が領地を侵犯した。

 よってその報いとして我らと似た格好をした軽率な女を連れ去った。

 返して欲しくば、邪な心を持たず英知に生きる者としての証明をしてみよ」


筋書きそのままのおかげで悩むこともなく、

こちらの雄弁が口を突いて出た。


「なにをしろというんだ?

 それは代表して俺だけが受け持つことが出来る試練か?」


勇敢なものが出来る自己犠牲、それを自ら申し出た。

完璧だ。

背中に感じる視線はまさに憧憬、のはずだ。

確認のため有希さんをチラッと見る。

大丈夫そうだ


「それは無理な相談だ。

 この島に足を踏み入れたのならば全員が正しき者かを判断する必要がある」


「そうか......」


言い終わるよりも早く食い気味に言いながら後ろを向いた。

そして、


「すまない......俺だけでは背負えなかった。

 でも、なんとかするよ」


己の無力さを謝る。

なんと気高き男なのか。

それを示せていることだろう


頭を下げながらもチラッとまた有希さんを見た。

流石に見過ぎだろうか。

さっきから仲間たちの顔は固まっている。


堂々とし過ぎて何もかも怪しまれ始めただろうか。

そう思うと嫌な汗が出るのは仕掛ける側のあちらさんだけでなく、

利用したい自分も同じ立場であった。


しかし、そのようなことはなく小声で聞こえてきたのは不安の声だった。


「そ、そんな強きな態度で大丈夫なの?

 相手は得体の知れない奴らよ?」


皆の気持ちを代弁するかのように美咲が問いかけてくる。

周りが小さく何度もうなづいた。


「心配するな、皆は俺が守る」


人生で言ってみたいことのベスト3に入って来る一言をいってやった。

こんな非日常イベントがなければ言えない、

恥ずかしい台詞ランキング第一位である。


軽い上着を風になびかせ、再び部族もどき達に毅然とした態度で向き直る。


「何が望みだ?

 正しき者の証明とはなんだ」


話が気味悪いくらいに早く進みそうなことに代表役が戸惑い、

仲間に視線を送るもすぐ真面目くさった顔に戻って

うっそうと茂る林にひとつだけある小道を指差して高らかに言い放ってくる。


実のところ、その道はこのふざけたお遊戯のために肝試しルートとは

また別にわざわざ作っておいたらしい。


「お前達全員には、あの小さな入り口の一本道を真っすぐ向かってもらう。

 その先々には貴様らの人数分と同じだけの試練が用意されている。

 それを各人、合格することが出来れば我々の集落の門は開かれ

 娘を返してやろう......ただし、その後は速やかにこの島を出ることだな」


こんなことを言っているが実態は姑息で、

人数分の試練とは各ポイントで仲間たちを次々に誘拐するのに絶好の場所を

暗に示しているだけで、試練場はもっと奥にある。


つまり縛り付けられているように見える花山がいる、

集落らしき場所から更に先だ。

元より挑ませる気が無いチャレンジロードの違和感も、

友が連れ去られる緊迫感で誤魔化すつもりの様だ。


「人数分とは誰を指している?

 攫った娘の使用人である、この人たちもか?」


「......ああ、そうだ」


一瞬、返答に困るのは無理もない。

ストーリー上、ビルとメイド三人組は自分達学生組よりも先行して

消息が絶たれる演出になっているので無論用意されてるはずもない。


実にここまでの流れも、

そしてこれからのことも裏側を知っていると滑稽である。


「語るべきは伝えたぞ!

 今宵......いや、今に上がっているあの陽が沈むまでに

 我らの集落に辿り着けなければ、娘は処刑する。

 努々、この島から逃げ出そうなどと考えるなよ......!」


天に拳を突き上げるように煌めく太陽を指差し、

そして次にこちらを脅すように指を向けて力強く熱演すると

満足してその場を立ち去って行った。


その並んで遠くに小さくなっていく背中はとても逞しいもので、

逆らう気を失くすような鬼が全員に宿っていた。


そんな彼らをこんな茶番に使うのだからびっくりである。


過ぎ去った脅威に後ろからは安堵の溜め息が多く聞こえた。

それでも未だ自分は彼らが見えなくなるまで威勢よく、

睨みつけているフリをした。


ようやく声を掛けてきたのは美咲だった。


「あ、アンタ......結構怖い物知らずなのね」


「別にそんなんじゃ......誰も危ない目にあってほしくないから

 自然とそうなっただけさ」


そう幼馴染に言い聞かせている様でいて......

目は有希さんに向いている。


「......見直したかも」


「......ああ」


この時、幼馴染の熱視線と漏れ出すデレには気付かず、

こっちはこっちで褒めて貰いたい人にアピールする視線を送りながら

適当な返事をするのに必死だった。


意図合ってどんなに良く見せようと振舞っても

好感度が一番上がっているのは、必ずしも意中の人とは限らない

ということをハル少年はまだ知らない。

遅くなりまして

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