夏休み編・59
夢の中では上手く走れなかったり、動けなかったりする。
そんなこともあって、よりによって団体競技をしている夢なんか見ると
現実と変わらない仕打ちを受けて......
「起きて」
「......ん?」
「もう終わったよ」
悪夢から覚めるとミドルメイドがいた。
それこそ現実とは思えない美しい谷間が良き目覚めをもたらしてくれる。
大き過ぎも小さ過ぎもしない、まさに
パーフェクトバランスを彼女は体現している。
ミドルは言い得て妙かもしれない
「皆は?」
「ヘトヘトになって歩いて帰ってる」
「そっか、君は?」
「片付けが終わったから、あなたを起こした」
背中には色々と背負っている。
これは見惚れている場合ではない
「俺も持つよ」
「ありがとう」
帰路の先にも後にも人影はない。
二人で夕陽を背に受けてゆっくり歩いて行く
「薄情だよな、審判やらせておいて
後片付けも押し付けるなんて」
「ううん、私がやるって言い出しただけ。
皆疲れているようだったし」
二人のメイドとは打って変わって、
常識的な子だ。
「鼻血は止まった?」
「ああ、大丈夫だよ」
加えて優しい。
オレンジに照らされた彼女の柔らかな笑みこそ
女神のようだ
そんな彼女のことを自分はまだ何も知らない。
「そう言えば聞いてなかったけど、
君の名前は――」
「ハル君~!」
前から有希さんが駆けて来る。
息を切らして自分達の前で止まる
「何か忘れものですか?」
「め、メイドさんとハル君に任せてたらやっぱり悪いと思って......」
わざわざ戻ってきてくれたようだ。
相当ミドルメイドが持つ量も軽くなって、良かった。
ノスタルジックな帰り道が三人並んで話すことで
少し明るくなった
「試合はどうだったんですか?」
「印象的だったのは私のチームが大きなメイドさんで、
相手にはビルさんがいたんだけど......凄かったよね?」
「うん、審判やってたから覚えてる。
凄い力のぶつかり合いだった」
「容易に怪獣大決戦が想像できるな......」
笑って、自分が参加できなかった試合についても
しばらく語り合うことができた。
それも綺麗な二人と......
急にそんな幸せを客観的に見る己がいた。
考えてみればメイドはもちろん、
有希さんとさえ知り合いであっても朗らかに
会話ができるなんて機会は普通に生きていて訪れるはずがなかった。
こんな大自然に囲まれた環境で疲れるほど遊ぶ体験も
とても貴重なことだ。
もっと具体的に言えば、こんなにも面白おかしい夏は
まだ始まったばかりだというのに人生の中で無い。
今になって急に今日が最終日であることが寂しい。
それほどまでに悲しんだり、拗ねたりもしたが充実していた。
心から楽しかったのだ
そう思うと、明日の朝早くに船に乗るまでには
せっかく同じ部屋にいる今夜のうちに
アイツに礼を述べて置かなければならないと思うのであった。
頬を撫でるそよ風が海から吹いている。
穏やかな心地で振り返ると、日が沈む前の煌めきが水平線を彩っていた
到底、この後突拍子もない展開が迎えているとは
それこそ夢にも思わなかった




